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陽光差し込む中、シーツに埋もれるエットーレの姿に不思議と穢れはなかった。
精根尽きたイレネオもともに体を横たえる。大の男が二人並んでも狭くならないベッドは端からその仕様だったのだろうか。
まだ信じられずにいる。
よもや己が両刀使いだとは思いもしなかった。そのけがあるとは……イレネオが呆けているとエットーレが「才もあるぞ」と横から余計な口を挟む。
悪態をつく舌打ちをする気力もなければ思わず漏れた溜め息は今も熱が引かない。イレネオが汗ばむ髪を掻き上げると、なにやらエットーレが呟いた。
「血は争えないな………」
しかし、ほとんど口の中で発した声は消え入り、イレネオが聞き返す。
「うん?」
「こっちの話」
顔が良いだけに微笑んでいればそれだけで済むとでも思っているのか、エットーレにはそんな節がある。「なんだよ」と覗く形のいい歯。
ほんの少し前までイレネオが舌でなぞっていた……
この瞬間に二人は何度もキスした仲どころか一度はまぐわった仲になってしまった。
エットーレの「後悔してる?」という声とともにこめかみに口づけられる。手練の娼婦みたいな慣れた仕草。色違いの双眸が、きらりと光る。
イレネオはつい否定してしまいそうになり、すんでのところで「………分からない」と唾を飲んだ。
「そっか」
しかし相手は特段気にした様子もなく短い言葉で切った。彼には相手の誤魔化しなど容易に見破ってしまえることでどうだっていいのだろう。
恋人でもない二人の間に甘い台詞が飛び交うこともなく、エットーレが一足先に体を起こすもイレネオは重苦しい腰をまだ上げられずにいる。
一糸まとわぬ姿で背を向けるエットーレは辺りに散乱した衣服をつまみ上げては思わせぶりに身につけていく。
「好きなだけそうしてていいけど……俺が淫魔じゃなくてよかったな?」
ろくにシャツのボタンも留めず大胆に胸元を開けているエットーレが振り向き様に言った。
「根に持っているのか」
「さあ? なんのことだか」
無論、浴室でイレネオが言い放ったことを指している。早々にぐったりさせられた彼はエットーレに向かって「売女なんて生易しいものじゃあないだろ」と口許を歪めたのだ。
ところが結局エットーレは最後まで白を切り通した。
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