De Angelis - デ・アンジェリス(天使) -

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 世間が知らない、なにかがひそんでいるのだろうか? あるいは陰謀が渦巻いているか。エットーレを覆う漆黒の闇。彼が身に宿す鬱屈(うっくつ)としたものの正体か。  イレネオは自分では到底たどり着けない巨悪が(うごめ)いている……そんな予感がした。  マウスを握る手のひらに熱がこもる。このところのイレネオは汗をかいてばかりだが、それはけっして夏のせいではない。  唾液の溜まった口の中がいやに乾いた。喉奥にも突っかかりを覚える。  一度唾を飲み込もうと喉を鳴らすと蛙が潰れたような音がした。おまけに横道にそれて危うく器官に入りかけ、イレネオは激しく()せた。  前傾姿勢で上半身を曲げ咳き込む(たび)に腹部の筋肉が隆起してなおさら彼を苦しめる。室内の空調は快適な温度を保っていたはずだが冷風が服の内側へ入り込むと腹をひやっと撫でる。  彼の体内はたしかに熱かったが、汗をかき、同じくらいに冷えていた。胃のあたりがきりきりと痛む。精神的なものからくる、よくない腹痛だった。  なおもイレネオはクリスタルディ()の記事を読み進める。地中海のほぼ中央に突き出た半島は長靴を思わせるその地で彼ら一族は名を馳せたという。  北部の港湾都市に東方から多くの物資が集まり、国としては十一世紀頃からその地の商人が大いに活躍し、商業が栄えていた。クリスタルディ()も例に漏れない。  また彼らは異国(ロシア)で掘り当てられた最高級の宝石を美しく削った。一族が手がけた装飾品(アクセサリー)は現在も世界屈指の人気と知名度を誇っている。  一族の当主として、あの脚本家(エットーレ)の父親の顔写真が氏名とともに載せられていた。  恐ろしいまでに美しい男とは、あまりよく似ていない……  このサイトで得られる情報はここまでか。結局のところ、エットーレに関することが不自然に抜け落ちていることしか分からない。  謎が深まったばかりで、イレネオはマウスのポインターを右上に合わせてタブをひとつ閉じた。  検索バーにはエットーレ・クリスタルディの文字。その下に様々な話題の記事がずらりと並んでいる。そのうちの一つにイレネオは目を見張った。 【華麗なる一族の光と影、人々を()(わく)する美青年は家族をも翻弄するか――。】  不名誉で下世話な見出し。アクセス数を目的とした素人が書き立てたということは火を見るより明らかだった。  記事(ゴシップ)の本文が少しだけ覗いている。 [近年、突如として彗星のごとく現れたエットーレ・クリスタルディ。新進気鋭の脚本家はその美しさから《地中海の宝石》とあだ名され……]  といったところで文章は途切れていた。
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