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狡いじゃないか、なんて男だ、あんなにも似ているくせに。
次々とエットーレは口の中で悪態をついた。散弾銃さながらの暴言が危うく口から溢れ返りそうになる。口の端からぽろっとこぼれかけたところで諦めて唇を歪めた。解せない。
エットーレが自らに俺が謝らなきゃならない理由がどこにある? と問いかける。
彼は常に許されてきた。我儘で激しい振る舞いで周囲を疲弊させ、その美貌で狂わせた。――よってエットーレは二十五歳になった今も奔放に生きている。
白を基調とした自宅は真っ青なカーテンが映え、夏の風で膨らんでは刺すような陽射しが布地を薄く透けさせていた。カーテンを突き抜けた陽光がエットーレを刺す。
見える方の片目だけを細め、不機嫌をぶちまけたような顔で室内に侵入した夏の陽を睨み返した。
凶暴な太陽など屁でもない。
ただエットーレには今ここにあるすべてのものがいらだちの原因になった。彼の過敏な神経は小さな小さな波が立ち、胸のうち側をざわめかせる。
一切の通知も寄越さないスマートフォンにカーテンの隙間から太陽が照りつけて熱を発する。エットーレは至極面倒くさそうにスマートフォンの位置を変えた。人差し指で画面を軽くタップするも、やはり何の連絡もなかった。
「くそったれ……!!」
夏の暑さの中でエットーレの声が響き渡った。
散弾銃と化したエットーレの口はまだ弾切れを起こしてはいなかった。玉の粒のような唾と一緒に言葉の弾丸が次々と飛び出す。なにもかもあのイレネオ・デ・アンジェリスのせいだ。
どうしてなにも連絡を寄越さない?
エットーレは茹だり、血が沸き立つ頭で考えた。この激しさや酷薄さに翻弄されないだと? そんな相手は――かつて一人だけいた――だが、その人に似る必要なんてない。微塵も。たとえ二人が似ているとしても。似てないくせに似なくていい。
ひどい気分で、ひどく不快だった。己に掻き乱されない存在というのは実に気に食わない。いつもは皆がそうだったのに。それなのに……
なぜ? どうしたらあの男を乱すことができるだろう? 体じゃなく、心まで。あの、うんと魅力的だった――イレネオの体だけでは物足りない。もう満足なんてできない。
口の中が乾くあまり、喉奥に突っかかりを覚えた。どうしたらあの男を乱せるのだろう? と暗示のごとく考え、考えあぐねいた。彼の親指はまたも口に含まれている。
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