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礼儀として閉じていた瞼の裏が発光する。何色とも判別のつかない光は何度も爆ぜていく。イレネオは自分のまつ毛が震えているのを感じた。
それをエットーレが「ふっ……」だか「は……っ」だか漏らした息で笑う。
「怖がりか?」
「いいや。違う」
まだ少しだけ唇が重なったまま聞いて答える。イレネオも「馬鹿にするなよ?」とばかりに鼻で笑い返した。
エットーレは「生意気な」と言いつつも頬を緩めた。その実、余裕があるのも悪くないかといったところか。
男らしくかさついた相手の唇を――エットーレとはまったく違っていた――獣のごとく舐めてやる。するとやはりイレネオは舌のざらつきに慄いたらしい。
まるでソフトクリームでも舐め取るかのように伸びてきた赤い舌。妙に動物じみた行為にイレネオは食われると顔をこわばらせる。
しかし、その身を固くしたイレネオを見ると、エットーレはますます気を良くした。
今度は白い手が足の間へ伸びてくる。
「待て!」
本来ならばイレネオが放つはずの声を横取りされる。片目だけの黒い瞳が睨めつけ、他方を隠す前髪が怪しく揺らめいている……
なぜ自身が抑圧されなければならないのだろう。その疑問はエットーレに圧されたイレネオであると同時に秘め事に対してでもあった。
同性ながらこの男を前にすると、つい「解き放たれたい」という欲に駆られてしまいたくなる。
指の繊細な手つきがイレネオに一段と罪深さを植え付けようとした。ジーンズのファスナーを下げる微弱な音が燃える導火線を思わせる。
次は……ベルトだ。唾を飲み込んだイレネオは緊張の面持ちで相手の様子をうかがった。ところが、ここにきてエットーレがいやに慎重になっていることに気づいた。
先ほどと同じ問いかけを今度は自分から投げかけなければならないようだ。
「怖がりか?」
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