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実年齢より若い少年以上に幼く無邪気な振る舞いにイレネオが面食らう。胴や背に回る腕の力は強く、肌が熱い。
事実、エットーレの体内では腹の底から何にも変えがたい幸福が湧き上がっていたのだ。イレネオがただ押しつけるだけの口づけを頬に食らう。そこから甘噛みなどの仕掛けは何もない。
「星の色……」
うっとりと夢見る瞳で――どこか遠くを見つめて――エットーレは呟く。悪くない答えだった。
「もっと見てくれ………」
「ああ、見てる」
もう左目の視力はないと聞いだが、異なる色の双眸は間違いなく彼を見つめている。その瞳の中にイレネオがいるのだ。
親指の腹で火傷の痕を撫ぜると、エットーレは怯えたように右目を瞑り、「あぁ、見えないや」と渋面をつくる。生々しい傷の凹凸を直に感じた。
いつまでもジーンズのファスナーだけを下げた、中途半端で間抜けな恰好はご免だ。なんとかして打開しなければならない。
震えていたエットーレの手を取り払い、自分でベルトを外すと、緊張の糸が切れたのがイレネオにも見て取れた。しかし男の手に潜り込まれるのは初めてのことだ。
力強い眼差しだけで催促される。わずかに腰を浮かせたその隙をついてくる。なぞって包む手に女のしなやかさは無い。だがエットーレの手つきは女と比べ物にならないほど優しく繊細で確実に追い込もうとしていた。
噛み締めた唇の隙間から、たまらず呻き声が漏れだす。やや掠れた語尾が声が色づき始めたことを予感させる。イレネオは懸命に苦しみに喘いでいるふりを装った。
赤らんだ額に汗が流れて血管が太く浮き出る。たまらず「ぅあ」などと甘えた嬌声が――本当にイレネオ自身の声なのだろうか? 口を閉じようとするも空気を噛むことしかできない。
後ろめたさが背筋から全身を這い回り、一点に集中していく。半ば強引に燻らされた火種が今にも……
イレネオは、はしたなく解放されようとしていたが突如として一息で熱量が引いていってしまった。
「口寂しいから、あと少し待って?」
爛と光った瞳がイレネオを縛りつける。口寂しい? 妙なことを言うエットーレが唇を擦り合わせた。
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