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皮膚の呼吸を感じる。二人はごく自然にベッドに身を沈めた。ここまで持ち込めば勝ったも同然。エットーレの独壇場だ。
上になって性急に食らいつく。彼もまた不必要な物は自らすべて脱ぎ去った。……獰猛な淫獣がいる。
恥じらいなど一切持たないエットーレは、そのしなやかな躯体を存分に見せつけた。まだ陽も明るいうちでは目に毒だ。
イレネオの本能が自分と同じ男に異性以上の魅力を感じ取ろうとしている……
故意に伸ばした前髪も乱れるうちに邪魔になったのだろう、エットーレ自ら大胆に掻き上げる。しかし生えぐせからか濡れた黒髪はいくつか束になってすぐに元通りになってしまった。
まさしく顔中に不機嫌をぶちまけたような表情にイレネオは不思議と少年の日の面影を見た。煩わしげに細めている瞳の奥だ、この場の熱量とも異なるものが息をひそめていた……憎悪とでも言おうか。
ともかく何年にもおよび――少なくとも十数年は経過しているはずだ――体の奥底で煮えたぎっていたものが双眸の中で燃えて揺らめいている。
彼の疳の強さをイレネオは垣間見た。
手助けのつもりだったのだろうか? 我がことながらイレネオ自身も判断しかねたが、エットーレの額へと手を伸ばす。そうして邪魔くさそうな長い前髪を掻き上げてやった。
艶のある黒髪の隙間から白く透明な眼球が覗く。驚きでわずかに丸くなっているのは、おそらく気のせいではない。
この男の不意をつかれた顔も悪くはないかと、イレネオの表情がほころぶ。
「………随分と、余裕だな?」
エットーレ・クリスタルディは一瞬たりとも他人が自らの上に立つことを許さない。
それが幼き日、小鹿ちゃん以前からの自身を守る彼の術だった。
あまりに高すぎるこの自尊心が無ければエットーレは己の境遇に屈し、倒れて、二度と起き上がれなくなっていただろう。
幾度に渡りどれほど虐げられたとしてもエットーレは皆、見下していた。上も下も自分が知るかぎり、すべての男がこの身に魅了されるのだ。
たまらなかった。気分が良い!
中でも唯一彼を対等に見てくれた人がいた。名前をくれ、自分に抱かせてくれた。
今その男に触れることができる。
たとえ、それが擬似でも構わない……
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