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クルーたちは途方にくれ、座り込んでいる。
「信じられないよ……」
「過去に戻っちまったなんて!」
「それもまだ人類のいない地球に」
私も戸惑っていた。いや戸惑うなんてものではない。正直言って、パニックになりかけていた。だが私は責任者だ。取り乱すわけにはいかない。
司令官の言葉を思い出した。「君なら大丈夫。きっとやり遂げる」。
そうなのですか、司令官? これが私の任務なのですか?
「よし」
私は手を叩いて言った。
「さあ、みんな、腰を上げろ。仕事にかかるぞ」
「艦長……」
「気を落としている場合ではない。我々にはやらねばならないことが山ほどある」
「どういうことです?」
「ここに仕事なんてありませんよ」
そのとき、アンナ隊員が立ちあがった。
「いいえ。やがて現れる人類を見守るのが我々の仕事よ」
アンナ隊員が言う。
「そうだ。このワクチンがあれば、人類はやがて来るウイルスの脅威にも打ち勝てる!」
「そんな何万年も先のことなんて……」
「なに言ってるんだ。このワクチンは人類の希望だぞ!」
「そうよ。それにほら、あそこにいる猿なんて、もしかしたら人類の祖先かもしれないわ」
アンナ隊員の指す先に、木を登る猿の姿が見えた。猿は木の実を取ろうとしているらしい。彼も生きるのに必死なのだ。また司令官の言葉を思い出す。「必要なのは目的じゃない。生きることそのものなんだ」……。
「そうだ、きっと僕たちの祖先さ」
そう笑うユーノ隊員に、
「いや、そうじゃない」
私は微笑んで、言った。確信に満ちた思いだった。
「我々が、人類の祖先なんだ」
了
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