帰還

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 そのウイルスは突如姿を現したかと思うと、爆発的に広まった。  致死性99%。あらゆる生物に感染する。有効なワクチンは地球上に存在しない。ウイルスによって、動物も植物もおそろしいほどのスピードで死に絶えていった。  ワクチンを作る方法は、理論的には完成している。そのためには生命力の強い植物が必要だったが、すでに地球上の植物はすべてがウイルスに感染していた。  いつの間にかウトウトしていた私は、いつか司令官と交わした会話を夢に見ていた。 「私にはわからないのです。人間は何のために生きるのでしょう? 生き残った先に何があるのでしょうか」 「生きるのに目的が必要かね。大切なのは目的じゃない。生きることそのものなんだ」 「艦長、前方に惑星が接近」  その声に現実に引き戻される。 「了解。乗員全員、着陸に備えよ」  私はそう言うと、目の前のスクリーンに映しだされた、巨大な惑星を眺める。  地球を出る前に、めぼしい星をピックアップしていた。これはその一つ目だ。地球を出発して、すでに数年が経っている。コールドスリープを繰り返しながら宇宙を航行するから年を取る心配はないが、問題は地球が絶滅の危機に瀕しているということだ。ワクチンを見つけても、手遅れになっては何の意味もない。  私は司令官の言葉を思い出し、口にする。 「きっとやり遂げる」  必ず、任務を成功させなければならない。重圧が全身にのしかかってくる。だが音を上げてはいられない。我々の乗るスペースシップが人類の、いや地球上の生物たちの最後の希望なのだから。 「頼むぞ」
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