帰還

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「みな、ご苦労だった。我々の旅は終わりだ。地球へ帰還する」  私が言うと、クルーたちの歓声が上がる。  ワクチンは完成した。あとは地球に持ち帰るだけ。私たちは、はやる心を抑えコールドスリープに入る。目覚めたときは地球だ。 「司令官、やりましたよ。待っていてください」  あと数年、あと数年だけ持ちこたえてくれ。祈るような思いで、私は眠りについた。    *** 「どうなっているの?」  アンナ隊員が言う。地球に降り立った私たちが目にしたのは、信じられないような光景だった。 「みんな、どこへ行っちまったんだ?」  他のクルーたちも、自分の目が信じられないという顔をしている。  地球には、人間が一人もいなかった。 「間に合わなかった、ってことなのか?」 「いや、それはおかしい。他の動物や植物は生きている」 「それに、文明の痕跡がまったくない! こんなバカなことがあるもんか!」 「星を間違えたんじゃないのか」 「いや、自動航行システムがそんなミスをするはずがない」  そのとき、ユーノ隊員が口を開いた。 「もしかしたら、と思っていたのですが……」  私はユーノに訊ねた。 「なんだ? ユーノ。言ってみろ」 「スペースシップは核融合と、光電磁加速システムから推力を得ています」 「ああ」 「ですが、この光電磁加速システムという代物、原理はよくわかっていないのです」 「なんだと?」 「科学者たちも、なぜこれでうまくいくのかわからないまま実用化したというわけです」 「我々はよくわからないものを使って飛行していたわけか」  私は頭を振りながら言う。 「……それで、それがこの状況と何の関係が?」 「物体は光に近づくほど、時間の進み方が遅くなる。ご存知ですよね」 「もちろんだ。だが、それなら尚のこと、人類の危機に間に合ったはずではないか」 「計算してみたのですが……惑星までの距離と航行時間から割り出すと、スペースシップの飛行速度は光速を超えています」 「なんだって?」 「光速に達すると時間が止まる。では、光速を超えるとどうなるとおもいます?」 「まさか!」  ユーノ隊員は青い顔をしている。冗談で言っているわけではなさそうだ。  我々の会話を聞いていた、他のクルーたちが騒ぎ始める。 「ユーノ、何が言いたいんだ?」 「艦長、どういうことです?」 「誰でもいいから、教えてよ!」  やがてユーノが口を開いた。 「いま我々がいるのは、過去の地球です」
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