プロローグ

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プロローグ

 学校から帰宅した私は制服を脱ぐと、部屋に置かれた大きな姿見の中の自分の姿を見つめて大きな溜め息を吐いて項垂れていた。そして、5Lサイズの部屋着に着替えてベッドに腰を下ろしてもう一度大きな溜め息を吐いた。  プロのシェフに負けない料理の腕を持つ母親が作る料理やお菓子を小さい頃から「美味しい♪ 美味しい♪」と、何も気にせずお腹いっぱい食べて生きてきたものだからこんな醜いデブに成長してしまったのだ。  私は伊部美乃里(いぶみのり)。もうすぐ体重が、100キロの大台に到達しそうになっている16歳のピチピチの女子高生…。のはずが、この醜い巨体のお陰で既に春から通い始めた高校では、クラスメイトから『デブ美乃里』と呼ばれて甘い青春とは程遠い生活をおくっている。 これが大きな溜め息の理由…。  『こんなことなら、悪魔に魂を捧げてでもスリムな身体を手に入れてこの巨体から開放されたい!』 心の底からそう思った私は、昨日立ち寄った古書店で手に入れた魔術や呪術的なものが色々と詳細に書き記されてある分厚い怪しげな本を手に取ると、ベッドにうつ伏せになって本を開いて悪魔の召喚方法が記された頁で手を止めてしばらく釘付けになってしまっていた。 *******   『確かにこのままじゃ人間として終わってる…。悪魔に魂を売ってでもスリムな身体を絶対に手に入れてやる。そして夢にまで見た合コンってやつに参加してやるんだ!』 普段は、超ネガティブなはずの私が、どうしてだかこの時は凄く前向きになれたのだった。 翌日、悪魔を召喚するために必要なものを揃えるだけ揃えた私は真夜中になるのを待って儀式を決行した。魔法陣の四隅に蝋燭を立てて大きく深呼吸をしてから、私は本に書いてある通りの召喚呪文をゆっくりと唱えた。 …しかし、何度か繰り返し唱えたんだけど…。特に何の反応も無かった。ハッと我に返った私は、馬鹿馬鹿しくなってクスクスと肩を震わせて自分のしていることを笑いながら諦めて立ち上がって部屋の灯りをつけようとした…その瞬間だった。 モクモクと黒い煙のような物が湧き上がり部屋の真ん中に置いた魔法陣の上を渦巻き始めた。そして、ジッと目を凝らして見てみると何かがその渦の中で立ち上がった様に見えた。そして、目の前の私を見つけて立ち上がった何かは冷たい口調で私に問いかけて来た。 「オイ! お前! お前が、このオレ様を召喚したのか?」 「あ あああ! はい! はい! 私です!」  煙の中から現れたのは、黒い大きな翼を背中に持ち、頭からは、長い見事な角が右と左にバランスよく伸びて突き出ていて、漆黒の髪は毛先にウェーブがかかっていて腰まで長く伸びている。涼し気な碧い瞳をした何とも美しい悪魔だった。 「それで? メスブタがオレ様に何の用だ? オレ様に食われたいのか?」 「わっ! 私はメスブタではありません! これでも一応人間の女子高生です! わ、私をこのブタのような姿からスリムな美しい姿にして下さい! お願いします!」 悪魔にブタと間違われて慌てて自分が人間だと告げて、その勢いで唐突に召喚した理由を私がお願いすると、悪魔の目尻がぴくりと上がった様に見えた。 「お前さ? マジで言ってんのか?」 「は、はい! マジです! 大マジです! この巨体から開放されるなら魂だって惜しくありません!」 今度は、少し口元がぴくっと上がって悪魔はニヤリと私を見て笑った。 「そうだな…。魔界の生活にも飽き飽きしていた頃だったし、退屈しのぎにお前の願いを叶えてやっても良いぜ! しばらく人間界でこのオレ様がお前のダイエットを手伝ってやる!」 「えっ? 今…。何て? あの。ダイエット?… ですか?」  悪魔の言葉に驚きを隠せず、私が聞き返すと悪魔はまた目尻をキッと上げて私を睨むとすごい剣幕で怒鳴った。 「オイオイ! 甘ったれるんじゃね~ぞ! デブ! 世の中そんなに甘かね~んだよ! 魔法でチャチャっと何とかしてもらえると思ったら大間違いだぜ!」 「えーーーーー!? マジですかぁ~!?」  悪魔の言葉に私が膝を付いて項垂れていると、悪魔の後ろから小さな黒猫が飛び出して来て私の前にちょこんと座って尻尾でパタパタと私の頬を叩いて悪魔に向かって叫んでいた。 「魔王さま! 本当にこんな人間の願いを叶える手伝いをしてやるのですか? このまま魂を喰らって、さっさと魔界へ帰ることなんて魔王さまには意図も簡単なことなのですよ!」 「簡単だからつまらね~んだろ? それに…人間界で暫く人間の格好で暮らすってのも面白そうじゃないか? そう思うだろ? 魔猫(マコ)?」 その黒猫は悪魔を魔王さまと呼び、人の言葉を当たり前のように喋っていた。 魔界へ戻る事を却下された魔猫と呼ばれるその黒猫は、敵意剥き出しの冷たい瞳でキッと私を睨みつけてからスッと一瞬で姿を何処かへ消してしまった。 こうして…。甘い考えで私が召喚した魔王と私の何とも可笑しな日々が始まってしまったのです。
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