停滞期に入ったら?焦らず任務を遂行しましょう。

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停滞期に入ったら?焦らず任務を遂行しましょう。

   過酷なダイエットが始まってから一ヶ月が過ぎようとしていた。  魔王のダイエット法は、正しかったようで…嬉しい事に私は、10キロ強の減量に成功していた。それでも…目標体重には、程遠い80キロ台だから。まだまだ、私の辛い日々は終わりそうにない。 魔王のことだから、すぐに人間界に飽きて魔界へ帰るだろうと思っていたんだけど…そんな素振りは、全く魔王には無かった。 毎日、楽しそうに私のダイエットを成功させるための研究を日々重ねている。本当に楽しそうにしか見えない。 「オイ! デブ! 一週間も成果が出ていないってのはどういうことだ? もしかしてお前、オレ様に隠れてコソコソと何か食ってんじゃね~だろ~な?」 「痛い! 痛いって! 食べてないっ!! 離して! 痛いっ!! 絶対に食べてないってば~!!」 私は、魔王にお腹の贅肉を掴んでギリギリと力を入れて引っ張られて尋問されていた。その痛みに涙目になって私が必死になって自分の身の潔白を訴えていたら、魔王がパソコンの画面に気を取られて掴んでいた手を離した。 「停滞期? 停滞期って奴に入ってるのか? う~ん。そうか…。停滞期だったのか…」 「だから! 食べてないって言ったでしょ? すぐに私を疑うんだから!」  私が、掴まれて赤くなったお腹を擦りながら魔王を責めると…魔王の目元がぴくりとまた上がって今度は両頬をギュっと掴んで引っ張り出した。 「うるせえー! お前はオレ様に向かって、そんな生意気な口を利ける立場じゃねえだろ? そんな生意気な口利いてる暇があるならストレッチ5セットな!」 「えーーーーー!! マジで~? さっき5セット終わった所なのに~!?」 つい口答えをしてしまった私は魔王の吊り上がった目を見て血の気が引いていくのを感じた。 「じゃ! もう5セット上乗せな! お前、文句多すぎ! さっさとやれ!!」 「あ~~ん! 嘘ーーー!? 勘弁して~!」 ここの所、体重が停滞して減らない日々が一週間も続いているので、魔王も少しイライラしている様子だった。どうしてそこまでダイエットに執着するんだろう? 魔王なんだから、魔法でチャチャッとスリムな女子高生にしてくれれば私だって楽で良いのに……。  泣く泣く…私がストレッチを5セット×2を済ませてシャワーをして部屋へ戻ると、もうそこには魔王の姿は無かった。 「魔王は、どこで寝泊まりしてるんだろう? それとも…魔界へ夜だけでも帰ってるのかな?」 きっと、魔王に聞いてもプライベートに口を挟むなって怒鳴るに違いないので…私は、このまま様子を見ることにした。  さすがに10キロも痩せると、少しピチピチだった制服が程よく着れるようになっていた。そんな私を見て、クラスの女子が気付いて声をかけてきた。 「美乃里ってば少し痩せたよね? やっぱダイエットしたの?」 「あ、うん。親がね…。健康のためにってうるさくって! へへへ♪」  さすがに…悪魔を召喚して、魔王に強制的にダイエットをやらされてるなんて言えないから、親のせいにして上手く話を誤魔化しておいた。 「もっとスッキリ痩せちゃったらさ~! 美乃里も合コンに誘ってあげるから頑張りなよね!」 「あ、マジで? ありがとう♪ 頑張るよ!」 私は、クラスのボス的存在の内山里緒菜(うちやまりおな)に励ましの言葉を貰ってしまった。本当は、ダイエットなんて長くは続かないだろうって思ってるんだろうけどね。魔王がいる限りダイエットは終わらないんだな。(笑)  最近では、学校から帰宅する時もひと駅前で降りて早歩きでウォーキングしながら家に帰ってくるようにと、魔王から指示されて続けている。最初は辛かったんだけど…慣れてくると歩くのも悪くないと思うようになった。 辛いと言えば、やっぱり食事だった。一ヶ月以上甘いお菓子も油ののったステーキや焼き肉も食べていない。ダイエットしてるんだから仕方が無いんだけどね。ダメと思えば思うほど食べたくなるんだよね。  家に帰ると…すぐに私は、部屋着に着替えてベットに倒れ込んで頭の中で色々な食べ物を思い描いていた。 「プリンに…アイスに…苺のショートケーキ♪ あ~あ、食べたいなぁ~!」  甘いお菓子を思い浮かべながら、つい願望を口にしてしまって…ハッとして起き上がると、目の前で魔王が吊り上がった目をして頬をピクピクさせていた。 「お前ってやつは、まだそんな甘い考えでダイエットしてんのかよ! このメスブタがーーー!!」 怒り狂った魔王は両手で私のお腹の贅肉を掴んで千切れんばかりに上へ下へと引っ張っていた。 「痛ぁーーーい! 痛い痛い~! ごめんなさい!! 許して魔王さま~!」 「罰として夕食後にウォーキング2時間と、ストレッチ5セット×2だな! その甘ったれた根性を叩き直してやる!」  掴んだ手をやっと離すと…魔王は、意地の悪い顔をしてみせて紙袋の中から何かゴソゴソと取り出した。 「あと…これな! お前さ、なかなか痩せねえから代謝ってやつが悪いせいかも知れねえと思ってお灸ってやつを手に入れて来てやったぜ♪ ちょっと、そこに横になってみろよ!」  私に返事をする間も与えずに、魔王は私をベットにうつ伏せに寝かせて背中を丸出しにして手に入れて来た何処で売っていたのか? 大きなお灸を二箇所ちょんちょんと乗せて火をつけていた。 「ああ、熱っ! ちょっと! 熱い!! あううううう!! 熱いってばぁーー!!」  数分経って…かなりお灸が熱くなって来て、我慢出来ずに私が喚き出すと…魔王は、すっごく嬉しそうに笑って私のお尻を叩いていた。 「うるさい! 喚くな! 我慢しろ! 停滞期を抜け出すためにも我慢しろ!」 「あ、ううううう! 我慢なんて無理無理! あううううう!!」 この時の魔王の楽しそうな顔と言ったら、ドS以外の何者でも無いと私は確信した。ドSな魔王の拷問から開放された私は、暫くベットで放心状態だった。しかし、すぐに叩き起こされて魔王に夕食後のウォーキングに連れ出されていた。 歩いている間に意識がハッキリと戻った私は、この際思い切って魔王に気になっていることを聞いてみることにした。 「あの…。魔王は、どこで寝泊まりしてるの? もしかして…。夜だけでも魔界へ戻ってるの? あああ、それから、やっぱ人間界って楽しいものなの? 魔界へ戻らなくて大丈夫なの?」 「なんだよ急に? どこに寝泊まりって? お前の家に決まってんだろ!?」 魔王の答えに固まっている私のことなんて、まったく魔王は気にしようともせずに話を続けた。 「お前んちの空間の狭間にだな、オレ様の部屋を創り出してそこで寝泊まりしてやってるのさ!」 「あ…なるほどね。さすが魔王さまだわ…。あははは♪」 家の中の、空間の狭間に魔王が自ら部屋を創り出していたなんて…考えもしなかったので、私は唖然として笑うしか無かった。 「それから、人間界はそれなりに楽しんでるぜ♪ 魔界には、無いものがいっぱいあるしな。後は、人間同士が醜く争う姿を生々しく見られるのもなかなか面白いぜ!」 「魔王さまは…とても人間界を満喫してらっしゃるのね」 楽しげに笑っている魔王に寒気を感じつつも、私は、2時間のウォーキングを何とか終わらせて家に戻った。 シャワーを浴びて念の為に体重計に乗るとやっと1キロ体重が減っていた。これで停滞期から抜け出せるのか? いやいや、そんなに甘いものではない。リバウンドだってするかもしれないし、ちょっとやそっとのダイエットで…すぐにこの巨体からは開放されるわけがない。この辛いダイエットの日々の行く末に…本当にハッピーエンドってあるんだろうか? その前に…これからも続く辛い過酷なダイエットの日々を思い浮かべただけでも、背筋に冷たいものを感じて身震いした。私は、ベッドに顔を埋めて魔王を召喚してしまったことを凄く後悔していた。
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