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(私は彼の何を知っていたのかしら。)
直樹と出会ってからの富士子はどうかしていたのかもしれない。あの日アポ無しで部屋へ行って合鍵で部屋へ入らなければ知らずにいられたかもしれない。
彼の運転するオンボロ車の助手席から海を眺める。青い空に白い雲、青く美しく光る海、寄せては返す波、海岸線申し分ない景色が続く。沈黙が延々と続く道のりは馬鹿みたいに美しく富士子の心模様とは真逆のようだったのを今でもはっきりと覚えている。何年も付き合ってるのにちゃんと普通のデートをした事が無い。いつも彼の部屋で交わってばっかりだ。
(彼がそれを望むならそれでもいいと思ってた。)
いつもは富士子のスポーツカーでドライブする。もちろん運転も富士子だ。今日は直樹のオンボロ車だ。だから助手席に座ってこんなに長いドライブをするのは初めてだった。
「ガソリンスタンドがあったら止まってね。」
「 トイレに行きたいの?」
ガソリンが空っぽだから満タンにしてあげる。ドライブに連れて来てもらったんだから当然だ。直樹のお財布はいつも空っぽで2人で笑い合った。3年も付き合ってるのに次にいつ会うかを決めないで別れたのも初めてだった。富士子は彼の彼女のつもりだった。でも、合鍵で部屋に入って裸の女の人と交わったばっかりの彼を見てしまった富士子は、どうして良いのかわからなかった。直樹から富士子に電話をかけてくれたのも初めてだ。家にかかって来たのだけれども偶然富士子が電話に出て良かった。両親には直樹の事は話してない。富士子よりも5歳年下で学生という理由だけで両親から反対されるのは解りきった事だったからだ。
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