魔法の時間

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 さっきはものすごく興奮していたから、ちゃんと書けなかったけど、今は少し落ち着いたので日記に向かってる。昨夜は、何度も目が覚めて、朝方になってもなかなか寝付けなかった。無性に歩きたくなってこっそり外に出た。歩いているうちに、薄暗かった空が白み始めて、私の心にも光が差し込むみたいだった。通り慣れた橋の上に来たとき、反対側から誰かが来たの。  誰か分かる? そう、有り得ないことだけど、こうちゃんだった。こうちゃんは私のところにやってきて、力一杯抱きしめてくれた。でもね、赤ちゃんどうしようとか、一緒に私も赤ちゃんも連れていってとか、言いたいことをぶつけたのに、何も答えてくれなかった。多分こうちゃんの言葉によって、私が悩まないようにしてくれたんだと思う。だから、私ももう何も言わないで目を閉じた。  後ろから自転車のベルが聞こえて来て、目を開けたらこうちゃんはもういなかった。代わりに、川の水面が宝石をちりばめたみたいにきらきら輝いてた。  産もう。  その三文字を読んで、俺は思わず息を呑んだ。
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