魔法の時間

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*  翌朝、母さんはいつも通り散歩に出かけた。俺も少し時間を置いて外へ出たが、マンションの下に母さんの姿はもうなかった。  だけど、構わず俺は歩き出した。目的地は、この近くにある橋。そこさえいけば、母さんに会えるはずだという確信があった。  俺の決心とは、コウモリみたいな夜行性の生活とは縁を切り、普通の高校生に戻るということ。それを母さんに伝えるには、この時間がベストだと思えた。   橋まで来ると、遠くの山の稜線から光が溢れ出していて、どこもかしこも黄金色に輝き始めていた。前を向くと、橋の反対側に青のストライプのワンピースを着た女性の姿があった。ただ、それが母さんだと気がつくのに、俺は少し時間がかかった。  もともと母さんは童顔で、姉さんに間違えられることも多かったが、金色の光を浴びながらこっちに近づいて来る母さんは、大人と少女の狭間くらいに見えた。 その時……。 「実日子(みかこ)」  誰かが母さんの名前を呼んだ。だけど、橋の上には俺と母さんしかいなかったし、声は間違いなく俺のものだった。  えっ……?  俺は訳が分からず自分の口元に手をやった。けれど、次の瞬間、俺の身体は誰かに操られてるみたいに勝手に走り出した。やっと動きが止まったときには、俺は母さんを思い切り抱き締めていた。 「(あきら)? どうしたの?」  母さんの声が明らかに困惑していた。何か身体が変なんだ……、そう言いたかったけれど、口は貝のように閉じて、俺に何も言わせてはくれなかった。代わりに出てきたのは、また、母さんの名前だった。 「……実日子」 「……こうちゃん?」  母さんが躊躇いながらそう囁いたのを聞いたとき、俺の意識は飛んだ。
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