魔法の時間

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 ふと思い立って、物置と化した空き部屋に移動する。  クローゼットを開けると、クリーニングのタグがついた冬用の学生服が見えた。初夏までは、俺に暑い暑いと言われながらも毎日活躍していたが、今は衣替えの時期を過ぎてもこの場を出られずに佇んでいる。  それから、ガムテープで不自然なほどぐるぐる巻きにされた段ボール。中に入ってるのは、サッカーボール、スパイク、それにユニホームだ。全てが必要なくなった一ヶ月前に、俺が一式詰め込んだ。  その段ボールの隣には思い出と記された大型の収納ボックスが置かれているが、今朝はその箱の蓋がわずかにずれていた。  あれ?  何かが挟まっているせいで、きちんと閉まっていないらしく、蓋を外すと、その何かがぽとんと箱の中に落ちた。拾い上げると、それは本のようで赤い布の表紙に金色の刺繍でDiaryと綴られていた。  母さんの日記? まぁ、そうなるか……。ここの家にあるのは、俺のじゃなければ母さんのものなんだから。  中を見るのはマナー違反だとは分かっているが、魔が差したとしか言いようがない。俺は日記を開いた。
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