魔法の時間

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* 「じゃあ、仕事行くから」  母さんが扉の向こうから声をかけてくる。声のトーンは控えめで、俺からの返事を待つこともない。  俺は何も言わず、ただベッドの上で寝返りを打った。パソコンの前に放置された例の日記が視界に入った。  忘れないうちにさっさと返そうと思い、日記を手に取ると、あのパンチのある文の続きが気になってきた。一度読んだら二度読むのも一緒と、日記を盗み見ることの罪悪感が薄れた俺は再びページを開いた。  記された日付は今から十七年前。つまり俺が産まれる一年前だ。  詳しくは把握していなくても、その一年が母さんにとって激動の年だったことくらいは知っている。  俺は「生かすべきか、逝かすべきか」とシェイクスピアを意識したような一文を探すため、ページをめくった。ところどころを拾い読むうちに、俺は母さんの過去に触れていくような感覚に陥った。
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