魔法の時間

　九月に入ると、日記はぱたりと途絶えている。

　その理由は明白。それは「こうちゃん」が死んだからだ。最近、よく話題になっている高齢者による車の事故だった。父さんは、アクセルとブレーキを踏み間違えたじじいによって轢き殺された。結局、母さんがこうちゃんと入籍することはなかった。

　そして、次に日記が再開されたときに書かれていた文こそが、「生かすべきか、逝かすべきか。」だ。線を無視して斜めに殴り書きのように記され、日付も目的語もない。だけど、この文の目的語は、簡単に想像がつく。答えは、俺＝母さんのお腹にいる赤ん坊のことだ。

　そのあとからは、再びきちんと綴られるようになっていた。