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プレリュード
違った――
自信をもって開けたカバンにぎっしりと詰まっていたのは、爆弾ではなかった。それはどこからどう見ても、ところてんのパックだった。
葛木潤は額の冷や汗を拭う。
どうして、ところてんをこんなにたくさん――いや、そんなことより、ここにないということは、じゃあ爆弾は一体どこにある。
「だから違うって言ったでしょ」
ニセ車掌は腕組みをして得意げに言う。口元には不敵な笑みを浮かべて。褐色のポニーテールが揺れている。
間もなく品川に到着します――アナウンスが流れ、客席がざわめき出す。東京駅到着まであと十分もない。東京駅に着いたら、爆弾が爆発してしまう。
「どこなんだ、爆弾は!?」
「それを探すのが刑事の仕事。あなた、刑事なんでしょ?」
彼女は大げさに肩をすくめて見せた。「私が本物の車掌じゃないって見破ったことは褒めてあげる。でも、詰めが甘かったわね。このまま爆弾の在処を言い当てることができなければ、あなたの負けよ?」
「もう、勝ち負けの問題じゃない。人の生命がかかってるんだ!」
「だから何? その、人の生命を守るのが、刑事の使命でしょ? その使命、全うしなさいよ」
高飛車な彼女の言葉に対する怒りなのか、無力さを突き付けられた自分への怒りか。
くそっ、どうしたらいい――
新幹線が、品川駅のホームに滑り込んだ。
《さあ、どうする? 降参かな?》
電話の向こう側、犯人の含み笑い。
いや。葛木は顔を上げた。
「答えは決まっている。俺が爆弾を見つければいいだけだ」
そう来なくっちゃ。彼女はニヤリと笑う――
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