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じっと見つめられていることに気づいた駅員は、何か用があると思ったのか、こちらに駆け寄ってきた。
「どうかされましたか?」
真正面に立たれて気づく。葛木は彼女の左胸を指さし、「エンブレム、なくしてますよ」と言った。東野が付けていたエンブレムが、彼女の制服にはなかったのだ。
しかし彼女は首を横に振り、「それ、元からないんですけど」と言う。
「元から?」
「ええ。エンブレムをつけているのは、西日本の社員です。新大阪より東は、東海のエリアですから、私たちは東海の社員なんです。西日本と東海で、制服が違うんですよ」
発車ベルが鳴った。
なんてこった――「ありがとう!」葛木は踵を返し、慌てて車内に戻る。デッキにいたはずの東野の姿が見当たらない。
「質問だ。東野というニセ車掌は、お前の共犯か?」
《へえ、やっとその質問が来たね。でも、爆弾の在処と関係のない質問には答えない》
「ってことは、共犯なんだな?」
《んー、特別にヒントをあげよう。僕からのサービスだよ? 共犯ではない、かな》
共犯ではない――ってことは、まさか。
轟音とともにトンネルに入る。葛木はその轟音に負けないように、「共犯じゃないってことは――!」と声を張り上げた。
「つまり、主犯ってことか! ――もしもし? もしもし?」
相手の返答がない。慌ててディスプレイを確認すると、通話が切れていた。
まずい。非常にまずい――
東野が犯人の一味だとすれば、いろいろ腑に落ちるところがある。彼女は二度、質問を妨害してきた。葛木は記憶を辿る。一つ目は《カバン》のこと、二つ目は《デッキ》のこと。それは偶然なんかじゃなく、意図的な妨害だとすれば、あのとき、爆弾は東野が提げていたカバンに入っていて、デッキにあったということではないか。
さらに犯人は、爆弾を共犯者が持っているのかという問いに対しても、《ノーだ。共犯者は持っていない》と答えた。それは東野が共犯者ではなく主犯だとすれば、確かに共犯者が持ってはいないことになり、そういう思わせ振りな言い方の説明もつく。
くそ、俺の目の前に爆弾はあったんじゃないか!
早く彼女を見つけないとーー葛木は直感的に、最後尾の車両を目指して走り出す。
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