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《さあ、どうする? 降参かな?》  電話の向こう側、犯人の含み笑い。  いや。葛木は顔を上げた。 「答えは決まっている。俺が爆弾を見つければいいだけだ」  そう来なくっちゃ。彼女はニヤリと笑う。  考えろ、考えるんだ。思い出せ、何かヒントがなかったか―― 「仕方ないわね、ヒントをあげる。迷ったときには、最初に戻るのよ?」  最初に戻る? 問題に戻れっていうことか? 《問題は、仕掛けられた爆弾の場所を言い当てること》《爆弾は、列車が目的地に着くと爆発する》  ――目的地。終着駅でも、終点でも、東京でもなく、《目的地》か。これか、さっきの違和感の正体は。 「質問だ」ケータイを持つ手に、自然と力が入る。 「爆弾が仕掛けられているのは、この列車か?」  犯人は電話の向こうでため息をつき、《ノーだ》と答えた。「その質問、最初にすべきよね」とニセ車掌もため息をつく。「まんまと引っかかったってわけね。お人好しだって評判は聞いてたけど」 「評判? 俺の?」 「そうよ。じゃなきゃ、ターゲットにしないわ」  やはり、最初から俺をピンポイントで狙ったってことか。 「目的は何なんだ?」 《そんなことより、もうすぐ東京に着くよ。いいのかい?》  葛木はフッと、一つ息を吐いた。 「いいさ。だって、この列車が終着駅に着いたところで、爆弾は爆発しないんだろ。さあ、質問を続けるぞ。爆弾が仕掛けられた列車は、目的地に着くのか?」 《ノー、かな》 「その列車、今、走っているか?」 《ノーだよ》 「爆弾が爆発して、死傷者は出るのか?」 《ノー》  犯人が言い、ニセ車掌が拍手をする。 「もう、答えにたどり着けるんじゃない?」  葛木は頷き、「ファイナルアンサーだ」と言った。これで間違いない。 「爆弾が仕掛けられているのは、車両基地にある廃棄車両だ」  東京、東京――アナウンスが流れ、デッキに乗客が出てきた。ニセ車掌はところてんの詰まったバッグを拾い上げる。「逃がさないぞ」と葛木は小さく呟き、彼女はまたニヤリと不敵に笑った。 《正解だよ!》  犯人は朗々と声を張り上げ、通話を切った。  列車のドアが開く。葛木はガラケーから手を放し、ニセ車両の手首をしっかりと掴んだ。  乗客が続々と降りていく。「最後の一人が下車したら、一緒に降りるんだ」葛木が言うと、彼女は首を静かに横に振った。 「いいえ、私は先に降りるから」  客席フロアから最後に出てきた女性は、大きなキャリーケースを抱えていた。その女性は葛木の方を見やると、ニッコリほほ笑んだ。あの女性――俺にガラケーを渡してきた人じゃないか! 「気づいた?」ニセ車掌は言う。「でもそれ、油断よ?」  彼女の身体が華麗に反転し、気づいたときには、彼女の履いているパンプスのかかとが、目の前にあった。鮮やかなかかと落としを喰らったという自覚を最後に、葛木の意識は途切れる――
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