ドラゴンの反乱とアザゼルさんの儚い野望。

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ドラゴンの反乱とアザゼルさんの儚い野望。

 それは突然、また始まった…。 城下のドラゴンの谷の麓の街が昨日からドラゴンたちに焼かれていた。私が生まれる前は、定期的に暴れていたというドラゴンたちも、父さまにこてんぱんにやられてからは、とても大人しく魔王城の城下を襲うこともなくなっていたらしい。 なくなっていたらしいのだけれど。何故か突然…また、暴れ始めたらしい。  こんなことを初めて経験する私は…。 不謹慎だけどすごくワクワクして父さまのいる司令室の前で、中の様子をうかがっていた。父さまは私には見せたこともないような怖い表情をして、城下が燃えているのを眺めて怒鳴り声を上げていた。 「オイ! 今回はオレ様に出なくて良いと言った癖に! すんげーやられてんじゃねえか。ったく!」 「も、申し訳ございません。予想外にドラゴンたちが十数体も徒党を組んで街を襲っている様子で…。苦戦している模様でございます」 伝令の兵士が父さまに怒鳴られながら、今の魔王軍の状況を報告しているのが私にも聞こえてきた。 「フフフ。ここは父さまの出番かしら? あんなに怖い顔した父さまは初めて見たわ。なんだかほんとにワクワクして来ちゃった♪」 「おやおや~? サラ様? こんな所で盗み聞きでございますか? いけませんね」  聞き覚えのある声が私のすぐ後ろで聞こえたので、振り向くとエルザがニコニコと笑いながら立っていた。 「サラ様はどうも、気性は魔王さまに似ておられるようで、落ち着かないご様子ですね~」 「だ、だって~! こんなの初めてだし。いつもヘラヘラ笑ってる父さまが、なんだか怖い顔して怒鳴ってるのがすごく格好良いでしょ? 怒られちゃうかもしれないけど。ワクワクして来ちゃうのよね」 エルザは私を叱るわけでもなく私の手を取ると、司令室の中へ入った。 「魔王さま! サラ様が魔王さまのご様子を伺いに来られておりますよ(笑)」 「オイオイ。ババァ! こんな所にサラを連れて来やがって! しょーがねえなぁー!」 怒鳴り声を上げていたけど、私の顔を見た父さまはとても怒っているようには見えなかった。 「父さま? 顔が笑ってるよ!」 「え? そっか? 笑ってねえ。気のせいだ!」 私が父さまに突っ込みを入れると、父さまはあさっての方向を向いて頭を掻いて笑っていた。 「ドラゴンたちを倒しに行くの? ねえ? 父さまがドラゴンたちを倒しに行くんでしょ?」 「そうだな~。手こずってるようだから、そろそろオレ様が出るしかねえだろうな!」 父さまは立ち上がって、私に自慢気にマントを羽織って見せると。闘いに出る準備を始めていた。 「母さまには何も伝えていかないの? このまま出るの?」 「ああ。何も言わねえよ! すぐに帰って来るからな! サラも大人しく待ってろ」 迎えに来た兵士たちと父さまは私をおいて魔獣に乗って、ドラゴンたちを倒しに行ってしまった。 「あ~あ。一緒に行って父さまの強い所を見てみたかったのに~!」 「フフフ。それは無理ですよ! 大変危険ですから、奥さまに魔王さまが叱られますよ!」  エルザに危険だと言われた私は。よくわからないけど、仕方がないから部屋へ戻ることにした。部屋へ帰って暫くすると、突然すごく大きな揺れが起こった。私は立っていられなかったので、床に這いつくばって揺れがおさまるのを待った。窓の外からは白い閃光が何度も光って大きな爆音のようなものも聞こえて来た。 「大丈夫でございますか? 姫様ーーー!? お怪我はございませんか?」 「あ。うん。大丈夫だよ! ねえ? もしかして…。今のって? 父さま?」  ショックを隠せないでいる私の身体を世話係の魔物はゆっくりと起こしながら深く頷いていた。激しい揺れが収まると、廊下をバタバタと伝令の兵士たちが走りながら父さまの勝利を叫んでいた。 「父さまって…。本当に本当に魔王なのね。やっぱり、怒ったらすごく怖いんだね」 「もう~! サラッたら、またおかしなこと言ってる。父さまは魔王に決まってるでしょ?」 私が父さまの凄さに感動していると、私の様子を見に来てくれた母さまがクスクスと笑いながらあれでも序の口だと私に教えてくれた。 「本当に怒ったら、きっとあんなもんじゃないわね。フフフ♪」 「やだやだ! 母さまったら! 私を怖がらせて面白がってるでしょ? もう~!」 母さまがあんまり私を脅かすようなことを言うので、口を尖らせて拗ねていると後ろでクスクスと笑い声が聞こえた。 「お怪我などはございませんか? 美乃里様。サラ様も。大事無かったご様子で。安心致しました」 「オースティンは今まで、何をしていたの?」 「わたくしは魔王に依頼を受けて今回の騒動の発端を追求して参りました」 「そうだったのよね。ご苦労様。それで? どうだった? 何かわかったの?」  母さまが真剣にオースティンに成果を尋ねると、オースティンはすっごく険しい顔をして調べてきた現状を母さまに伝えていた。 「それがですね。どうもアザゼルがドラゴンたちをけしかけたようなのです。この事実を魔王に報告するべきかどうか…。美乃里様はどう思われますか?」 「無理! 絶対ダメ! 言わないで。絶対知られちゃダメよ! それから、暫くはアザゼルを誰かに見張らせておいて頂戴!」  アザゼルという名前が出た途端に。母さまは青筋を立ててオースティンに詰め寄って、絶対に父さまに話してはいけないと口止めしていた。 「どうして父さまに伝えてはダメなの? 母さま?」 「それはね。サラ。また、魔王が何ヶ月も100もの兵士を連れて馬鹿みたいな子供のケンカに出ちゃったら困るからよ。兵士たちが気の毒でしょ? だから、サラも今の話は絶対に父さまに知られてはダメよ!」 何ヶ月も? 100の兵士? 子供のケンカ? 要するに。アザゼルのことを父さまに知られたら、大変なことになるということだけは私にも理解出来た。  魔王軍を引き連れて帰って来た父さまは、その夜。宴を開いて兵士たちを労っていた。飲んで騒いで気持ち良く酒に酔った父さまの前にいつの間にか、私の知らない悪魔が立ってニヤニヤと笑っていた。 「オイ! 何しに来やがった。アザゼル! 懲りもせずに。また、ケンカを売りに来やがったのか!?」 「クククク。また奥方に殺されそうになるのは遠慮しておきたいのでね。ケンカは売りませんよ!」 アザゼルって……。なんか嫌なオーラを纏った気味の悪い悪魔で、蛇のような目をしていてとにかくすっごく気持ちが悪かった。父さまがすごい形相で羽を広げて構えると、アザゼルは両手を上に挙げたまま怖い怖いと笑いながら中庭から飛び去ろうとしていた。するとアザゼルの後ろから母さまがやって来て、赤い光の玉のようなものをアザゼルに向かって放っていた。 「ウギャァァァァーーーーー!!」 赤い玉はそんなに大きくは無かったけれども。かなりの威力があるようで、アザゼルはその場に倒れ込んでしまった。 「オイオイ! いきなりかよ! お前らしくねえなぁーーー(笑)」 「アザゼルだけは特別よ! 野放しにしておくと、また皆が迷惑するんだから!(怒)」 さすがの父さまも、怒っている母さまには敵わないようで。倒れ込んだアザゼルをすぐに兵士に片付けさせると、母さまと一緒に広間の向こうへ消えてしまった。 「フフフ。美乃里様は強硬手段に出られたようですね。あれでは魔王も何も言えませんからね。兵士たちも胸を撫で下ろしていることでしょう♪」 「母さまもすごく強いのね。知らなかったわ。誰も教えてくれないんだもの」  私が少し拗ねてイジケていると、オースティンは優しく包み込むように後ろから私のことをハグしてくれた。 「サラ様もきっとそのうちに。ご自分の中に眠っている魔力に目覚めるのです。魔王や美乃里様のようにね。フフフ♪」 「今は、よくわかんない。あんなことを本当に出来るのか想像も出来ないし。なんか怖い」  オースティンにハグされて、私は心臓が飛び出しそうなくらいドキドキしながら父さまと母さまの魔力の凄さに私は少し震えていた。こうして、アザゼルは母さまに儚くも野望を打ち砕かれて、闇の谷の谷底の牢屋へ投獄されてしまった。
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