運命の出逢い

1/1
前へ
/7ページ
次へ

運命の出逢い

 傷ついた心を癒やすために。コッソリと城を抜けだして、私は城下の街をブラブラと目的もなく歩いていた。 城に一番近い大きな街だから色々なお店がたくさん出ていて、見てまわるだけでも時間は十分に潰せそうだった。ここにいる魔物たちは、ほとんどが二足歩行で人間に近い姿をしている。 それに、魔物だけでは無くて魔法使いも店を広げていた。朝食を食べ損なった私はまずは腹ごしらえをしようと思って、私が屋台で干し肉を挟んだパンを買ってからその辺にある木箱に腰掛けて大きな口を開けて食べようとしていると、後ろから知らない男の怒鳴り声がした。 「オイ! お前! 見ない顔だな? どっから来たんだ?」 「ちょっと待って! 大事な食事中だから、ちょっと待ってね!」  私が男を待たせたまま、急いで手にしていた残りのパンを口へ放り込んで立ち上がってすぐそばの屋台で果実を絞ったジュースを買って一気に飲み干して「おまたせしました~♪」と言って振り向くと、機嫌の悪そうなゴツイ感じの魔物が子分を引き連れて怖い顔で立っていた。 「あらま。……怒っちゃったかしら?」 「なめてんのか? コラァ~!! 何処のもんだ? お前は!?」  こいつら…私が男の格好をしているもんだから、どこぞの騎士か何かに見えたようでやられる前にやっちまおう的な考えからか? 仲間を集めてやって来たようだ。 「どこって? あそこ!」 私が魔王城を真っ直ぐ指さすと、荒くれ者のボスはガハガハとお腹を抱えて笑い出した。 「おめえ! もうちっと。まともな嘘を付きやがれ! あれは魔王さまの城だぞ!!」 「ええ。だから、あそこから来たって言ってるでしょ?」 私が動じずに答えると、ボスのほうがうろたえ出して仲間たちとコソコソと何かを相談し始めていた。 「オイオイ。お前らその辺にしておかないと、魔王さまにぶっ殺されるぞ!」 すると、物陰からローブを纏った私くらいの若さの魔法使いが静かにスーッと現れて荒くれ者たちの前に立っていた。 「魔王さまにぶっ殺されるって? 何でだ?」 「この方の髪の色を見て気付かないのか? 魔王さまの姫君は確か…赤毛」  魔法使いの言葉に驚き慌てた荒くれ者たちは、私の方を見て赤毛であることを確認すると蜘蛛の子を散らすようにあっという間にいなくなってしまった。 その様子を唖然として見ていた私のことを、魔法使いはクスクスと笑って私の手を取って歩き始めた。 「姫様はかなり無茶をされるのですね? お城での生活に退屈されているのかな? フフフ」 「ま、まぁね。気分転換なの。お城にいてもつまらないし。…モヤモヤしちゃうから」 初めて出会った同じくらいの歳の魔法使いに、私は手を引かれて街の中を歩いていた。 「あ。名前? あなたの名前を聞いてないじゃない? 私はサラ。サラって呼んでね♪」 「失礼しました。私の名はルーク。ルークとお呼びください」 魔法使いは自分の名を名乗ると、深くかぶっていたフードを取って私に顔を見せた。 「ねえ? 魔法使いって……。銀髪の人が多いの? それに。あなたの瞳…オッドアイ?」 「フフフ。私はオースティン様の甥っ子にあたるので、同じ髪の色をしているだけです。銀髪の魔法使いはそんなに多くはありませんよ。オッドアイは、たまたまらしいです。幼少の頃は、これが気味が悪いと石を投げられたこともございます」 そう私に話しながら、空を見つめるルークの金と銀の瞳はとても美しい色をしていた。 「気味悪くなんて無いわ! 誰がそんなことを言ったの? 私が叱ってあげる。こんなに美しい瞳をしているのに。失礼だわ!」 「サラ様はお優しいのですね。そのお言葉だけで十分でございます。ありがとうございます」 私が大声で怒鳴っていると、ルークは嬉しそうに微笑んで私の手を取って跪いて手の甲にそっと接吻をしていた。 「あわわわわわ……」 私が真っ赤になってすぐに手を引っ込めると、ルークは立ち上がって私に聞いた。 「これからどうされるのですか? まだ日が沈むまでには時間はたっぷりありますよ」 「そうね…。まだ、お城へは帰りたくないから…出来れば街の中をブラブラしたいんだけど…」 ドキドキと波打っている胸に手を当てて、気持ちを沈めながら私はルークに返事をしていた。ルークは私の返事を聞くと、嬉しそうに微笑んで私の手を取って歩き出した。胸がドキドキはするものの……。楽しいほうが勝っているのか? そのままルークと私は手をつないだままで、夕暮れまで街の色々な所を回って楽しく過ごしていた。 「ねえ? ルークはお城へは来ることは無いの?」 「まだ、私は修行中の身なので…早くオースティン様のようになりたいって思ってはいるんだけど。なかなかね。フフフ」 私の質問に少しルークは苦笑しながら答えると、優しく私をハグしてくれていた。 「今日は、サラ様と一日を過ごすことが出来て…とても楽しかったです」 「私もすっごく楽しかったわ。それに。助けてくれてありがとう。また、会えるよね?」 このまま別れてしまうと、又いつ会えるかもわからなかったので、私はとても寂しくて……。なかなかルークから身体を離すことが出来なかった。 「きっと会えますよ。サラ様が願えば、必ずまた楽しい一日を一緒に過ごせます」 「そうかな? また、父さまに邪魔されちゃうかも……」 「その時は…。私がサラ様をお城から連れ出しに参ります。だから、泣かないでサラ」 「あっ!?」 ルークはそのまま私の頬に顔を近付けて、そっとキスをして私を真剣に見つめていた。 「ルーク…約束だよ。絶対の絶対だよ!」 「命に変えてもお約束します。愛しい私のサラ」 私とルークは…。初めて出会ったその日の内に恋に落ちて、別れを惜しみながらも固い約束を交わして私は一人で魔王城へと戻った。  城へ帰ると。私がいなかったことに、誰も気付いていなかった様子で、普通に部屋へ戻って服を着替えて夕食を済ませた。父さまも母さまも…オースティンのことは私に何も言わなかったので、私も今朝の母さまと父さまの話は聞かなかったことにして黙っていることにした。 *************  そして、一週間が経った……。私はルークに会いたくて会いたくてたまらなかった。少しでも暇があると、あの日のことを思い浮かべて胸がキュンとして苦しくなった。さすがに母さまも鈍感な父さまでさえも、私の様子がおかしいことに気づいた様子で慌ててオースティンを城へ呼んで私の部屋へ寄越していた。 「ご機嫌如何ですか? サラ様? おやおや。これはもしかして?」 「オースティン…。あうううう。ルークに。ルークに会いたいの~(涙)」 久しぶりに訪れたオースティンの顔を見た途端…私の瞳からはポロポロと涙が溢れてきて止まらなくなってしまった。あんなにオースティンにドキドキ胸を高鳴らせて恋していたはずの私が、今ではオースティンを見てもドキドキもしなくて普通に顔を見て話しても平気だった。そして、私は涙ながらにルークに会いたいと繰り返し訴えていた。 「フフフ。ルークもサラ様にお会いするために、毎日とても真面目に頑張っていますよ」 「本当に? ルーク…私のために頑張ってくれているのね」 笑顔を取り戻した私にオースティンは、ルークから預かってきたと綺麗な天然石で作った腕輪を私の腕に嵌めてくれた。 「父さまや母さまににはまだ話さないでね。もしかしたら、反対されちゃうかも知れないし」 「そうですね。わかりました。このことは暫くの間はあのお二人には話さないでおきましょう♪」 私は物分りの良いオースティンに、ありがとうと言って抱きついていた。ルークは、私の護衛の魔法使いとしてお城へ上がることになっているとオースティンは教えてくれた。 それと……。試練があったほうが私とルークの恋心というものが燃え上がるだろうからと。オースティンは「ちょっとしたこれも演出なのですよ」と言ってクスクスと楽しそうに笑っていた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加