プロローグから始めます。

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プロローグから始めます。

 魔王の父さまと。人間なのに魔力を持つ母さまから。私が生まれて2年が過ぎようとしていた。母さまは父さまと結婚した時には、まだ『ジョシコウセイ』だったらしくて。今でも若々しくて、私とは姉妹のようだと言われて母さまはとても嬉しそうだった。  本当なら人間の母さまは100年も生きられず。どんどん年老いるはずだったけど。どうしてなのかはわからないけれども、父さまの魔力の半分が母さまの中にあることで、母さまは私や父さまと同じ様に成人した姿のままで、年老いることはないのだそうだ。父さまなんて、今では私よりも幼く見えてしまうから、父さまと呼ぶことに最近ではとても戸惑いを感じていた。 「サラったら~! 最近になって急に態度が父さまに対してよそよそしいから。父さまがすっごく拗ねてたよ!」 「あうううう。だって~! 父さまって子供っぽいし、父さまって呼ぶのになんだかすごく違和感を感じるんだもん」  私が正直に思っていることを母さまに話すと。母さまはクスクスと笑いながら私の背中を優しくポンポン叩いていた。 「もう~~! サラったら、笑わせないでよぉ~~。お腹痛いよ~~♪ でも、確かに。あれを父さまって呼び辛いかもね~~」 「でしょ? 母さまでギリだよ! 母さまも多分。もう少ししたら私。名前で呼んじゃうかもしれないわ! 美乃里ちゃん♪ とか?」 私がふざけると、母さまはキャッキャと笑ってそれはそれで私は良いかも~♪ と言って深く考えてはいないようだった。 「おやおや。楽しそうですね♪ 相変わらず美乃里様は天真爛漫なご様子で。姫君のサラ様の方が落ち着いて見えますね。フフフフ」 「あ。オースティン! ひどいなぁ~。これでも私はサラの母さまですからね。確かに。サラのほうが落ち着いて見えるけど。へへへ」 私が母さまと母さまの部屋で笑い声を上げて楽しく話していると、いつの間にかドアの側にオースティンがいて母さまと私の会話を聞いて笑っていた。 「お久しぶりです。姫様♪」 「こ、こんにちはオースティン……」 オースティンに手を握られて、手の甲にくちづけされて私の心臓は今にも飛び出しそうなくらいドキドキしていた。 「か、か、母さま! これから、私。勉強会だから。行くね!」 「え? サラ? あれ?」  私は耳の先まで顔が熱く火照って、自分の顔がきっとゆでダコのように真っ赤になっていると思うと。いても立ってもいられなくて、勉強会と嘘をついてオースティンのいる母さまの部屋から急いで逃げ出していた。  部屋へ戻った私はベッドへ寝転がって、ドキドキと高鳴っている胸を抑えながら静まるのを待った。オースティンの顔を見るだけで、物心ついた時から私の胸はこうなってしまう。平静を保とうと何度か頑張って試みたけれども。どうやっても胸は高鳴り顔は耳の先まで真っ赤になってしまうので、未だにオースティンとはまともに会話をしたくても出来なかった。 「ううう。今日も挨拶だけで終わってしまった……」 私は母さまに作ってもらったウサギのぬいぐるみを抱き抱えて、こんな自分を嘆いていた。もっとオースティンと話がしたいのに。いつもいつも挨拶だけで逃げ出してしまう。このままじゃ~。いつか、オースティンは呆れて私に挨拶もしてくれなくなるかもしれない。 「やだやだ! そんなの絶対やだぁーーー!」 私は叫んだ後で、枕に顔を埋めて情けない自分を呪ってしばらく項垂れていた。  それから1週間後。母さまに呼ばれて私が母さまの部屋へ行くと。オースティンが目隠しをされて長椅子に座らされていた。驚いた私は声を上げそうになったけれど、必死に口を両手で抑えて我慢して母さまに言われるままオースティンの横へ黙って座った。 「これなら少しはオースティンと話が出来るでしょ? いつもいつも挨拶だけじゃオースティンも気の毒だし。サラも、ちっとも成長できないからね」 「母さま……。でも、これは少しやり過ぎじゃない?」 私が母さまに意見すると、クスクスとオースティンは横で笑ってそうっと私の手を優しく握りしめた。 「いえいえ。サラ様とこうやって話せるのなら、私は一向に構いませんよ♪」 「あう! ほ、本当に? で、でもすごく窮屈そうよ。母さまの命令なの?」 私の問いに、オースティンは首を左右に振って両手を広げて横にいる私を包み込むように軽くハグしてクスクスと笑っていた。 「フフフ♪ サラ様は、本当に心優しくお育ちになられたようですね。私はとても嬉しいですよ」 「ちょっと!! おさわり禁止! 勝手に許可無くサラに抱きつかないで!!」  母さまは慌ててオースティンから私を引き離して、傍にあった椅子に私を座らせて油断も隙もないんだからと言って怒っていた。それでも、オースティンが目隠しをしていることで、私は緊張することもなく他愛のない話だったけれども、楽しい時間を過ごすことが出来たので母さまにはとっても感謝していた。 きっと母さまは、ずっと前から私のオースティンへの気持ちに気付いていたに違いない。……ということは? オースティンも私の気持ちに気付いているのかな? まさかね。アハハハ。 オースティンは帰り際に目隠しを取って、私の顔を見つめてニッコリ微笑むと、優しく私の赤い髪を撫でてくれた。 「この次は目隠しと美乃里様は抜きで、サラ様と私を2人きりにして頂けたら良ろしいのですがね♪」 「フフフ。甘いわね! まだまだ2人きりになるには早いわよ。あんまり早くサラに手を出しちゃったら魔王に本当に殺されちゃうわよ!」  オースティンが次は2人きりになりたいなんて、すっごく恥ずかしいことを口にするから。私はまた胸が高鳴って耳の先まで顔がゆでダコのように真っ赤になってしまった。そして、オースティンにサヨナラも言えないままで、私は部屋へ戻って来てしまった。  その夜。夕食が済むと、父さまが珍しく私の部屋まで来て、城下で綺麗な青い天然石の髪留めを手に入れたと…。何故か、とても誇らしげに私に向かって差し出した。 「うわぁー! 綺麗~~♪ ありがとう。父さま~~~~♪」 「オイオイ! もうガキじゃねえんだから。抱きつくなよぉ~~~(笑)」 私が嬉しくて、首に両手を絡ませて抱きつくと。父さまはへへへ♪ と笑って、頭をポリポリと掻いて照れくさそうにしていた。最近、私が父さまと顔を合わせないようにしていたので、きっと父さまは悩んで城下へわざわざ私の気に入りそうなものを探しに行ったに違いない。  翌日になって、私は母さまに髪留めを見せて昨夜の父さまのデレデレぶりを話していた。 「魔王なのに父さまは、母さまと私には甘すぎるよね(笑)」 「別に良いでしょ? 魔王だって四六時中冷酷なままじゃいられないんだし」 母さまは私の話をちっとも気にする様子もなく、私の髪を櫛で綺麗にとかしてから髪留めを留めてくれていた。 「魔界の魔王なのに? あんなにデレデレしちゃってて大丈夫なの?」 「父さまが毎日怒ってたら、世界が崩壊して消えてなくなってしまうかもよ? フフフ」 私は父さまが、魔力を使って何者かと戦っている所を目にしたことが無かったので母さまの話にはピンとこなかった。 「よっぽどベルゼブブのほうが、魔王らしく見えると思うけどなぁー」 しかし、この後に。私は本当の父さまの恐ろしい姿を目の当たりにして、今の言葉を撤回することになるのでした。
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