光の理由

1/1
前へ
/1ページ
次へ
 暗闇、暗闇。  ここが暗闇だとわかるのは、一点の光が見えるからだ。  今にも飲み込まれそうな、小さくて頼りない光。  ここはどこだろう。あの光は何?  沈んでいくような、浮かび上がるような。  ここは海かもしれない。あれは星?  でもしょっぱくない。波の音もしない。  動かした腕は、あらぬ方向へ飛んでいくような感覚だった。  空を落ちているのだろうか。地上の光?  でも息苦しくない。風の音もしない。  しばらくここに押さえつけられているような、閉じ込められているような記憶。  もしかしてこれは、生まれる前の記憶?  あれは外の光?  でも呼吸をしている。服を着ている。  お母さんの声が聞こえる。  名前を呼ばれている。  手を握られている。  記憶。  暗闇。  そうだ。  ここが暗闇だとわかった。  光が見えたから。  今までは暗闇が普通だったのに。  瞼を開く。でもすぐに閉じてしまった。  お母さんの喜ぶ声。  これが、光なんだ。  徐々に慣れていく。  初めて、見る。  お母さん。  触った感じとは違う。人の顔ってこんな感じなんだ。  これから、この目で星を、夜景を、この世界の光を見ていこう。  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加