光の理由

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 暗闇、暗闇。  ここが暗闇だとわかるのは、一点の光が見えるからだ。  今にも飲み込まれそうな、小さくて頼りない光。  ここはどこだろう。あの光は何?  沈んでいくような、浮かび上がるような。  ここは海かもしれない。あれは星?  でもしょっぱくない。波の音もしない。  動かした腕は、あらぬ方向へ飛んでいくような感覚だった。  空を落ちているのだろうか。地上の光?  でも息苦しくない。風の音もしない。  しばらくここに押さえつけられているような、閉じ込められているような記憶。  もしかしてこれは、生まれる前の記憶?  あれは外の光?  でも呼吸をしている。服を着ている。  お母さんの声が聞こえる。  名前を呼ばれている。  手を握られている。  記憶。  暗闇。  そうだ。  ここが暗闇だとわかった。  光が見えたから。  今までは暗闇が普通だったのに。  瞼を開く。でもすぐに閉じてしまった。  お母さんの喜ぶ声。  これが、光なんだ。  徐々に慣れていく。  初めて、見る。  お母さん。  触った感じとは違う。人の顔ってこんな感じなんだ。  これから、この目で星を、夜景を、この世界の光を見ていこう。  
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