三 花小路家の人々

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三 花小路家の人々

 長大なテーブルの上に、これまた長大な一枚の白いテーブルクロスが敷かれ、その縦方向の中心線に沿って等間隔に金色の燭台が置かれている……そして、その大仰なテーブルの周りには、さすがに〝着飾って〟とまで言わないが、それでも高そうな衣類を身に着けた男性やご婦人方が取り囲むように席につく……。  さっきは僕の勝手なイメージだと思ったが、そのイメージそのままの、ステレオタイプのようなお金持ちの食卓風景である。  その一階西側の食堂内に広がる非日常的景色の片隅で、僕達は縮こまって椅子にちょこんと座っていた。  いや、縮こまってるのは僕だけだな。このプレッシャーの中でも先生の方はというと、どこ吹く風とばかりにののほほんとした様子である。 「皆さん、ご紹介します。こちら、茂叔父さんの死の真相を調べてもらうために来ていただいた、探偵の秋津影郎先生と助手の御林さんです」  押し黙った人々が、じっとこちらに鋭い視線を向ける重苦しい空気の中、柾樹青年はそこにいる全員の顔を見回しながら、先生と僕のことを紹介した。 「探偵!? おい、そんな話、わしは聞いておらんぞ! それにだいたい、あれは自殺と警察が判断したはずじゃないのか!?」  上座にどっかりと腰を下ろす恰幅のよい初老の人物が、突然、怒気を含んだ大声を食堂内に響かせる。のっけから、あまり歓迎されてないこと明白な雰囲気である。 「すみません、お父さん。でも、このままはっきりしない状態ではよくないと思ったんです。みんな、叔父さんは誰かに殺されたんじゃないかと思っていますし……」 「ふん。わしは自殺で納得しておるわい。あの状況では自殺以外考えられんわ。それよりも、そんな得たいの知れぬ下賎の者に身内の恥を嗅ぎ回れるのは恥の上塗りじゃわい」 「お父様! その言われようはあまりにも失礼ですわ! それに、このことは柾樹さんだけでなく、わたくしも望んでのことなのです。叔父様の死で家族の中に殺人鬼がいるのではないかとお互い疑心暗鬼になっているこのような状況、わたくしにはもう耐えられません!」  どうやら僕らに良い印象は持ってないみたいだが、それにしても失礼なその言い様に、柾樹青年に代わって桜子さんが厳しくその非礼を嗜める。  僕らと家族の顔合わせのはずが、どうやら僕らはそっちのけで、初っ端から彼女達だけで盛り上がってしまっているようである。 「ああ! すみません先生、失礼いたしました。こちらが僕の父の花小路幹雄です」  そのことに気づいたのか、柾樹青年は慌ててこちらを振り返ると、初老の人物を自分の父親だと言って僕らに紹介した。  その恰幅のよい老人は、黒の羽織に縞の袴の和装スタイルで、少し長めの白髪を後ろに垂らした、いかにも(・・・・)って感じの人物だ。  どこか柾樹青年に風貌は似ており、今はまあ歳相応にアレ(・・)だが、若い頃はけっこうな美男子だったのかもしれないことを思わせる。  なるほど。柾樹青年の父親ということはこれがこの家の主か……とは言っても、同じ花小路の姓で同じく歳もとってはいるが、当然のことながら昨日会ったあの花小路氏とはまったく別の人間である。  だが、なんとなくあの老人とも顔立ちが似ているところは、やはり親戚か何かなのだろう。亡くなった花小路氏の弟で、こちらの分家を立てたとか? 「あのお、依頼の件ですが付け加えますと、御親戚の花小路さんからもご依頼がありましたので。ほら、花小路グループの会長さんです」  父親と意見が合わず、柾樹青年達が困っているのを見かねたのか、先生が間延びした声で脇から助け船を出した。  息子の言う事は聞かずとも、さすがに親戚の依頼ともなれば、この頑固そうな家の主人もとりあえずは納得してくれることだろう。 「花小路グループ!? なんじゃその敵性国かぶれした名前は? そんないかがわしい親戚なぞ知らん! というか、その前に貴様何者だ!? おまえも探偵とやらの仲間か!?」  しかし、僕の希望的観測に反して老主人は再び声を張り上げると、これまた時代錯誤なことを言っている。その上、お約束的にこの人も先生の存在に今まで気づいてなかったようだし……。 「あ、いえ、たぶん誤解されているんじゃないかと思いますが、僕は助手の御林であり、こっちが探偵の秋津先生です」  もう慣れっこなので、他の人が説明する前に僕の方から先に自己申告しておく。 「なんじゃ、貴様が探偵じゃないのか!? どうりでやけに若造だと思うたら……そんないるだかいないんだかわからん探偵では余計に無用じゃわい!」  やっぱりかぁ……確かに〝いるだかいないんだか〟は否定できないけど……なんか、もう僕が秋津先生ってことにしといた方が話が早いような気もする。
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