三 花小路家の人々

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 そして、その腹を突き合うような言動からは、茂氏の死が誰か家族の者の仕業ではないかとお互いに疑い合い、加えて、各々が密かに抱いていた負の感情までをも噴出させるそれぞれの心の内が容易に見て取れる。  先程、桜子さんが〝お互い疑心暗鬼になってる〟云々と言っていたのは、つまりこういうことだったのだ。 「なんですって! あなた、言っていいことと悪いことがありましてよ!」  咲子夫人の発言に対し、彩華夫人の怒りにも火が付く。 「もう、いい加減にしてください! お客様の前ではしたないとは思いませんの!?」  これ以上、家族の言い争いが激化するのを止めるためか? それとも、このあまりにも見苦しい状況にとうとう耐えかねたのか? 桜子さんがこれまで以上に大きな声で怒りに我を忘れているよい大人二人を一喝した。今までの可憐な彼女の印象とはまるで違った、非常に激しい口調である。 「くっ……」 「…………」  桜子さんに叱られた二人は、不意に我に返って押し黙る。 「あ、ああ…えっと……最後に、こちらが叔父の息子で、僕の従兄弟にあたる本木薫君です」  気まずい静寂を取り戻した食卓で、柾樹青年がその場を取り繕うかのように最後の一人を僕らに紹介する。   「はじめまして、本木薫です。よろしくおねがいします」  僕らの横に座るその少年は、ばつが悪そうに苦笑いを浮かべながら頭を下げた。  先程、咲子夫人――つまり自分の母親を嗜めた少年である。その母と比べると、ずいぶんおとなしく。理性的な人物だ。 「いやあどうも、こちらこそよろしくおねがいします」  薫少年の挨拶に、先生はこの場の空気をまるで読んでいないかのようなのんびりとした声でそう答える。対して僕は黙ったまま、なんとか頭を下げるのが精一杯である。 「さ、皆さんのご紹介も終わったことだし、お食事にいたしましょう。せっかくのお料理が冷めてしまいますわ」  柾樹青年の家族紹介が終わると、桜子さんがとって付けたように声をかける。その声によって、気まずい静寂に包まれた食卓にカチャカチャとナイフやフォークが皿に当たる微かな喧騒が生まれ、人々はようやくに昼食を摂り始めた。  この桜子さんという人間が、バラバラになりかけた家族達をなんとか繋ぎ止めている……そんな印象を、僕は健気な彼女の姿から感じ取っていた。  にしても、とんでもないところへ来ちゃったもんだなあ……。  こうした上流階級の家になるとどこもそんなものなのかもしれないが、その家族関係というのはどこか歪であり、どこぞの韓流ドラマか昼ドラ顔負けのどろどろ加減である。あっちもこっちもいがみ合いばかりで、こうして静かに食事をしている間ですら、お互いの持っている嫉妬や嫌悪といったマイナス感情がひしひしと伝わってくる。 「いやあ、さすがは花小路家のお昼ご飯、とっても豪華絢爛ですねえ」  だが、そんな居心地の悪い雰囲気の中にあっても、まるで高級レストランのランチメニューが如き昼食を前に先生だけは存分に満喫している様子である。  一方、となりに座る僕の方はというと、このなんとも重苦しいその場の空気に、とてもじゃないが料理を味わうような余裕を持つことはできなかった……。
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