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その数分後、僕らは再び、昨日無断で鍵を壊した、あの不開の間ではなかった部屋へと足を踏み入れる。
「――とはいうものの、やはりこれ以上は何も見つかりませんねぇ……」
しかし、中に入ったはいいものの、がらんとしたその部屋を見渡して先生は途方に暮れている。
以前にもここは捜索したが、となりの部屋の密室トリックを解くような手がかりは何一つ見つけられなかったのだ。
「御林君、何かよい方法知らないですかねえ? 私はどうしても、この部屋の中にあの密室トリックを解く鍵があるような気がしてならないんですけどねえ……」
そして、行き詰まった先生は苦し紛れに僕へと振ってくる。
だが、そんなこと僕が知るはずもなく、そもそも知ってたら、こんな風にもう一度調べになど来てはいない。
「そうですねえ……となりの部屋の鏡台から鏡の世界に入ってその中を移動し、そこの鏡台の鏡からまたこちらの世界に戻った…とか? そう。犯人はプリンセス天功並みのマジシャンだったんですよ」
先生がいい加減な質問をするので、僕も真面目には受け取らず、いい加減なくだらないジョークを返す。前に先生が言っていたものをこちらも使わせてもらったが、我ながらほんといい加減な答えである。
……しかし。
「鏡? ……ああ、そうか! それですよ! 鏡です! いや、さすが御林君だ!」
と、先生が突然、感嘆の声を上げたかと思うと、なぜだかまた僕をいたく賛美する。
「えっ? ……それ?」
また〝それ〟だ。さっきから何がそれで、何があれなんだか、僕にはもう何がなんだかわけがわからない。
それって、鏡のことか? もしかして先生、いよいよ本気でおかしくなって、今、僕の言った話をそのまま鵜呑みにしちゃったとか? ……いやいや、バカと天才は…とは聞くが、さすがにそこまでには至っていないと思うけど……。
振り返れば午前中からずっと、僕は一人置いてけぼりである。もうこれ以上、取り残されるのは御免だ。
「それっていったいなんのことなんです? まさか、本気で鏡から出入りしたなんて思ってないですよね?」
僕は大真面目な口調で先生に改めて尋ねる。
「いや、そうじゃないですよ。バカですねえ」
しかし、眉をひそめてそう答えられ、僕はまたちょっとこめかみにピキっときたが、これ以上ややこしくしないためにもここは堪えて話の続きを聞く。
「〝鏡〟というのはね、家具の配置のことなんですよ。いいですか? この部屋の家具の配置をよく憶えておいてください。そうしたら、今度はとなりの部屋へ行ってみましょう」
先生はそう言うと、そそくさとドアを開けて出て行ってしまうので、僕もわけのわからないまま、その後を追ってとなりの部屋へと移動した。
不開の間のとなり――そこは言うまでもなく、二人の人物が殺された事件現場である。床には今もその被害者の一人、咲子夫人の遺体がシーツをかぶせられた状態で横たわったままだ。
「さあ、今度はこちらの部屋の家具の配置を見て、何か気づくことはありませんか?」
僕が、その床に置かれた今や人ではない物に目を奪われていると、傍らに立つ先生がクイズでも出すように尋ねる。
「気づくことですか? ううん、気づくこと……気づくこと……ああっ! 鏡!」
しばし、部屋の中をぐるりと眺め回し、僕もそのことにようやくにして思い至った。
「そうです。こちらとあちらの部屋とでは、家具の配置がまるで鏡にでも映したかのように左右対称なんです」
……そうなのだ。前に初めて不開の間に入った時もそのことはなんとなく感じたが、確かに数少ない調度品であるベッド、鏡台、クローゼットの配置が、まるで鏡像のように左右対称なのである。
「まあ、狭い部屋ですんで一つの位置が決まれば、他の二つもおのずとその位置に納まってくるのでしょうけれど、その一つ、クローゼットの位置はおもしろいほどに左右対称になっています。しかも、こちらが向かって左側の壁、むこうが右側の壁にくっ付いていますから、おそらくこの二つは壁を隔てて背中合わせに立っているんじゃないですかね。なんでだと思います?」
「え? い、いや、なんでと言われても……」
また唐突に尋ねられるが、訊かれても、当然、僕にはそんなことわからない。
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