【第9話:サグレアの森へ】

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【第9話:サグレアの森へ】

 ギルドマスターのメルゲンから依頼の説明を受けた翌日。  ステルヴィオたちは、サグレアの森に近い門の前で、勇者レックスたちが来るのを待っていた。 「ネネネもトトトも、そろそろ起きろよ?」  頭と背中に張り付いている獣人の双子の幼女に声を掛けるが、返ってきたのはイビキと涎だった。 「はぁぁ……なんで寝る時だけオレに張り付いてくんだよ……」  そう言って愚痴をこぼすステルヴィオに、 「二人ともステルヴィオ様の事が大好きなんですよ」  そう言って微笑むアルテミシア。 「起きてる時はアルにべったりなのに、なんで寝る時はオレの上で涎べったりなんだ?」 「はははは……そ、それは……」  ジト目で返すステルヴィオに、アルテミシアが苦笑いで誤魔化していると、勇者レックスたちが現れた。 「おはよう、ステルヴィオ。あぁ……どうやら少し待たせてしまったみたいだな……その、その子たちは大丈夫なのかい?」  ステルヴィオの頭と背中に張り付いて寝ている獣人双子幼女を見て、どう聞くべきかと迷うレックスに、 「あぁ、いつもの事だから気にしないでくれ。こいつら、いくら強くてもまだ幼いからな」  と、背中のトトトに優しい視線を向ける。  ちなみにネネネは後頭部に張り付いているので見えない。 「いつもなのか……それはそれで大変そうだね。でも、そんな状態で連れていっても良いのか? おそらく今回の依頼はかなり危険だと思うけど?」 「あぁ、それは問題ない。こいつらが選んだ道だからな」  何かステルヴィオがカッコいいことを言っているが、頭と背中に猫耳幼女が張り付いているのを忘れてはいけない。 「そ、そうか。それならこれ以上は聞かないでおくよ。それで、そっちは人形馬車持ちだったのか。凄いね。初めて見たよ」  人形馬車はかなり高価なので、冒険者で所有している者自体、ほとんどいないのだが、それ以前にこの国ではゴーレム技師と呼ばれるゴーレム馬車を作れる者がいないため、輪をかけて珍しい物となっていた。  これは、この国の人間至上主義が裏目に出ている形だ。  ゴーレム技師のほとんどが亜人のドワーフなため、彼らが差別の残るこの国に定住する事はこれからもないだろう。  以上のような理由から、レックスたち以外の通りがかりの者たちも、馬型ゴーレムを見ては驚いているものが後を絶たない程度には、この国では珍しかった。 「人形馬車だと馬の水場を確保しなくて済むし、現地で収納できるから便利だぞ? レックスも買ってくれってねだったらどうだ?」 「無茶言わないでくれ。勇者がそんな贅沢品乗ってたら、変な誤解受けかねないよ」 「へ~、この国の勇者はそんな感じなのか」  国によって勇者の扱いや待遇は大きく変わるのだが、このラドロアでは、扱いはともかく、あまり待遇面は良く無いようだ。 「でも、困ったな。そこまで遠く無いから、僕たちは徒歩で行くつもりだったんだが……」 「ん? 別にオレの人形馬車に乗るぐらいは問題ないだろ? 時間の節約になるし、この馬車に一緒に乗っていけばいい」 「お。良いのか? それじゃぁ、お言葉に甘えさせて頂こうかな? みんなも良いよね?」  振り返って仲間に確認すると、魔法使いのソリアが申し訳なさそうに、 「あの……レックス様。乗せてくれると言うのはありがたいのですが、この人数は……」  そう言って、周りにいる者の数を目で数える。 「あぁ~、そうか。ちょっと乗り切れないか?」  今この場には、ステルヴィオ一行と勇者レックスのパーティー合わせて10名と1匹がいる。  ケルは子狼なので誰かの膝の上にでも座らせれば良いとしても10人。  そのうち幼女2人含まれていると言っても、合わせれば一人分ほどの場所は取る。  結果、だいたい9名分の座席が必要だった。  馬車の外観を見る限り、御者台に一人座るとしても、その大きさから5名乗るのがやっとに見える。  とてもではないが全員が乗り込むのは無理があった。  だがステルヴィオは、 「大丈夫だよ。この箱馬車、連結できるから」  そう言うが早いか、虚空から突然もう一台の連結用の箱馬車を取り出した。 「なっ!? まさか空間収納のスキル持ちだったのかい!? いや、それにしてもこんな巨大なものを収納できるものなのか!?」  驚くレックスたちを無視して、取り出した馬車を人力で動かし、人形馬車の後ろに連結する作業に取り掛かった。 「お、驚きました。収納スキルがここまで大きいものを収納できるなんて、知りませんでした……」  その作業をぼんやり眺めながら呟く魔法使いのソリアに、手早く連結作業を終えたステルヴィオが、 「ん~空間収納とは違うんだけど、まぁ似たようなものかな?」  と適当に返事を返した。 「良し! じゃぁ、さっそく出発しようぜ!」  唖然とするレックスたちだったが、何事も無かったかのように馬車に乗り込むステルヴィオたちを見て、慌てて自分たちも後ろの馬車に乗り込んだのだった。  ~  早朝、少し薄暗い時間に馬車で出発したおかげで、一行はまだ朝日が眩しい時間にサグレアの森の入口に到着した。  そして今度は、当たり前のように二台の馬車と二頭の馬型ゴーレムを収納するステルヴィオに、乾いた笑いを浮かべる勇者レックスたち。 「ステルヴィオの収納スキルって、色々規格外すぎないかい……」 「そうか? ゼロも同じことできるぞ?」 「なっ!? そ、そうなんだね……」  だんだん自分の収納スキルに関する知識が間違っているのかと疑いだすレックスだったが、いざ森に侵入する段になると、その表情も真剣なものへと変えていった。 「それじゃぁ、ステルヴィオ。君たちは僕たちの後ろから着いてきてくれ、例の場所(・・・・)を知っているのは僕たちだけだからね」 「あぁ、わかっている。現地までは任せるさ。ただ、魔物が現れた時は恐らくケルが最初に気付くと思うから、こいつの咆哮が聞こえたら敵が現れたと思ってくれ。もちろん、その時はオレたちも戦わせてもらうぞ」  大きな欠伸をして伸びをしていたケルだったが、自分の名前が出てきたことに気付くと、慌ててすまし顔で自信満々な態度を見せた。 「ははは。頼もしいね。もちろんそれで構わない。そもそも僕たちのパーティーで一番足りていないのが索敵能力だから、助かるよ」  こうして勇者レックスのパーティとステルヴィオ一行は、『魔界門(・・・)』へと向けて、サグレアの森に踏み入ったのだった。
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