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一
「まったく! うちの生徒ともあろう者が何をしているのですか!」
しのぶ先生の気合いの入った説教は、校舎裏の空気をこれでもかとつんざいた。耳の奥がわんわんする。表情を崩さないよう口を固く結べば、今年で三十になるという敏腕教師は、私を見て憂うように首を振る。
「どうして貴女まで一緒になって……親御様が泣きますよ」
何の先入観か、私が彼女たちにそそのかされたことになっている。ほんのり眉根を寄せると、隣にいたサヨがとぼけた顔をつくった。
「私の親だって泣くかもしれませんよ。最初に池に入ったのは私だし、存外ツッコの親より泣いてくれるんじゃないかな。ちなみにしのぶ先生は、泣いてくれないんですか?」
あっけらかんと言い放つサヨに、先生は片眉を上げる。私に向けられていたきついまなじりが、サヨの方を見た。
「またサヨさんは……もう涙も乾きましたよ。いつまでそうやっているつもりですか? 女性のくせにはしたない」
先生は大きな溜息を吐く。彼女はロングスカートのポケットから懐中時計を取り出すと、今の時刻を確認し、まだ何か言いたそうにサヨに目を移す。
もっとかかるだろうか、いや、それよりも。私は引いていた顎を上げた。
「先生。しかし、人を助けることに女性も男性もないのではないでしょうか」
サヨは狙ったのだろうが、説教の対象が彼女の素行にすり替わるのは、私の願うところではない。でなくとも、先生の言葉には譲れない点が一つある。
「お二人は私が落とした鬢鏡を探してくださったのです。お二人があの池に踏み込んだとき、私はただ立っているだけの自分が恥ずかしいと思いましたわ。ですから一緒に泥に入ったのです。むしろあの場では、黙って見ている者の方が惨めになるのだと、私はそう感じました」
そういう意味では、ずるくはしたないのは自分だけだ。二人は悪くなかったし、そしてどんな行為であっても、女性であるからという理由で怒られるのは違和感を覚える。
放課後の校舎に人はまばらで、静かだった。しのぶ先生はやや考える素振りを見せた後、私を見据えてこう告げた。
「そうね。貴女が原因なら、反省文は貴女一人が書くこととします。……もう無茶はおやめなさいね」
厳しい物言いだったが、その眼差しは心なしか和らいでいた。善行を褒め悪さを正す、基本的によい先生なのだった。
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