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三
「紅葉狩り……ですか?」
「うん。参加者は俺と、俺の友達二人と、君たち三人。今度の休みにでもどうかな」
小首を傾げる私に、砂原さんは爽やかな笑顔で返した。泥事件から二日経った放課後の、校舎裏でのことだ。はたして池の水が本当に引いたかどうか、確認のために私たちは来たのだけれど、彼には予想された行動だったらしい。
私より五つ年上の青年技師は、からりと乾いたくぼ地の中で私たちを待っていた。ほとりに集まった女生徒三人に背を向けて、彼は平野の先に広がる峰を仰ぐ。
「少し時期は早いけれど。もう那須連山の方は色付いているからね」
とは言いながら、高い山には登らないようだ。次に砂原さんの口から挙がった場所は、普段から歩いて行けるような地域の川べりだった。
聞けば聞くほど不思議な話だったけれど、参加するのが男女三人ずつ。きっと色事が絡んでいるのだろうと、私は視線を背後に向けた。そうとくれば、頑張るべき子が一人いる。
「砂原様のお友達二人って、ひ、比島様も入りますか……?」
私の後ろで、そろそろとリツが聞いた。
「そりゃあもう」
砂原さんはくぼ地から彼女を見上げ、意味深に頷く。
「あいつも楽しみにしているよ。着物を着るか洋装にするか、年甲斐もなく悩んでいた」
ふわあ、とリツの可愛い声が漂った。これはもう、季節を飛び越えて春が来そうだ。
わざわざ会を催す意味があるのかしら?
そんな言葉が出かかったけれど、ぐっと我慢をした。サヨを見ると、彼女も私と同じくだれた顔をしている。巻き込まれた形でも、友人の恋路を応援したいのは本当なので……私は話をまとめようと、砂原さんに問いかける。
「次のお休みですね。昼食はどういたしましょう? 何かこちらで用意をして、持って行きましょうか?」
すると砂原さんは、首を横に振った。
「気持ちは嬉しいが、俺らで準備するよ。君たちの本分は学業だろう。その点は心配しないでくれたまえ」
目を見張った私に、砂原さんは気障っぽく片目をつむる。それから長い足をよっと伸ばして、くぼ地からここまで一息で上った。
「天気に恵まれるといいね。良き会になることを、主催者として祈っているよ。では職務に戻るので、御免」
「お仕事中にこうやって……お疲れ様ですわ」
上下揃いの作業着に微笑みかければ、大きな笑い声が上がる。彼は首に巻いていた白い手ぬぐいを手に取ると、端をひらひらとハンケチのように振りながら、私たちの元を離れていった。
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