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閉じかけた扉の取っ手を右手で握り、音がしないようにそっと閉める。小さくきぃ、と鳴ったドアに彼は気づいていないだろう。からからと鳴るスーツケースの足音にドキドキしながら、エレベーターへ向かう。お泊まりに来てて喧嘩するのは毎回のこと。でも、私の方が出ていくのは初めてかもしれない。ピ、と小さく鳴ったエレベーターのボタンをぼんやり眺めながら溜め息をつく。 些細なことで喧嘩……というより一方的に怒られて、謝るだけ謝って仲直りしてすっきりした表情の彼と添い寝をする。それがいつもの流れ。ひどいと彼から別れを告げられる。1,2,3,4……いや数えるのはきりがないから止めておこう。 ようやくやってきたエレベーターに乗り込んで、置いてきた彼や荷物のことを考える。私から別れを告げたら、見栄っ張りの彼はきっとそのまんま別れるんだろうな。そうしたら荷物は郵送してもらうことにして、私の家にある彼の荷物も郵送することにしよう。もし追ってきてくれたなら……。 チン、という音がしてエレベーターの扉が開く。とりあえず、どこか遠くへいこう。彼のいない所に。
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