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「坊主の言い分は分かった。だが、お前がすべきだったのは家出ではない。もっと母親とぶつかるべきだったんだ。良い子を止める事が、お前に出来る事だぞ」
「不良になれって事ですか?」
それは違うとイサオさんは、ケーキのイチゴをチビチビ大事そうに食べながら言った。年1のまともな食事だからか、イサオさんはのんびり味わってご飯を食べている。
「お前にはもう、暗闇を一緒に歩いてくれる友達が居るんだろ?大事なら、母親が何を言っても手を離しちゃダメだ。親が間違えてると思う事柄には、我を貫き通せ!」
その言葉に、僕はとても勇気をもらった。僕の中の暗闇に急に強い光が射し込んで、眩しく感じた。闇が消えていく。懐中電灯はもういらない。何故か泣けてきた。どうせもう、こんなに大きな反抗をしでかしてしまったんだ。良い息子はもう止めよう。
「イサオさん、有難うございます…」
「ワシは何もしとらんぞ」
爪楊枝で歯と歯の間の食べかすを掻き出しながら、イサオさんは僕の頭を撫でた。
「忘れるなよ、修。普通に生活出来てるお前達は光の中に居るんだ。ワシら浮浪者は陰。出来るだけ人目に付かない様に生きるワシらから見たら、お前が羨ましいぞ」
僕は、この人にもいつか光が射す人生が来ると良いなと漠然と思った。
朝日が眩しい位、僕に降り注いでいる。
ベンチから起きると、公園の中にイサオさんの姿はなかった。昨夜、僕が寝付くまでおしゃべりに付き合ってくれたイサオさんは、人の邪魔にならない様に、夜明け前には場所を移動すると言っていた。浮浪者が公園に居たら、子供が安全に遊べないからと。だからって、僕に黙って居なくなるなんて…。改めてお礼を言いたかったのに。僕に貸してくれたボロボロで臭い毛布も置きっぱなしだし。まあ、また今晩ここに来るよねと、僕は毛布を畳んでベンチの端に置いた。
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