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カッとなって家を飛び出したのは、友達を馬鹿にされたからだ。直樹君は僕が5年生に進級して、すぐに声をかけてくれた同じクラスで漫画が大好きな子だ。なあ、君はどんな漫画読むの?自分の席で真新しい教科書を読んでいた僕に、隣の席の直樹君がそう声をかけてくれた事がきっかけで、友達になった。僕はあまり漫画を読んだ事がなかったので、代わりに好きな児童文学作品を答えたら、漫画を読まない子供なんて珍しいなと笑われた。その日から、僕はお薦めの文学作品を、直樹君はお薦めの漫画を教え合い、貸し合う仲になった。
直樹君の薦める漫画はどれも面白かった。時々、内容がちょっとエッチなラブコメもあり、僕は頬を赤らめたが、それでも楽しくお互いのお薦めを貸し借りしていた。
児童文学なんて今まであんまり読まなかったけど、面白いな!と直樹君に言われた時は、僕は心から嬉しかった。僕もそう!漫画も面白いね!と返事をしたら、直樹君は僕に拳を向けた。僕はそれに自分の拳を軽く当てる。グータッチ。僕らはいつもこうして過ごしていた。
ある日、僕はミスをした。直樹君から借りた漫画に夢中になりすぎて、お母さんに頼まれていたお手伝いを失敗してしまった。お風呂の水を溜めているから、溜まったら水を止めておいてねと言われていたのに、待っている間に漫画を読んでいたら、水は見事に溢れてしまっていた。それをお母さんに見付かり、僕は激しく叱責された。ごめんなさい、ごめんなさい、と僕はひたすらに謝ったけれど、お母さんの怒りは収まらない。
「だいたい修は最近漫画の読み過ぎなの!だからこんな失敗するのよ!漫画は脳に悪いって本当ね!こんな物!」
お母さんは僕を怒鳴り付けると、直樹君の漫画を僕から取り上げ、たっぷり水が入ったバスタブの中に捨てた。僕は悲鳴を上げた。借り物なのに!何て事をするんだ!
「酷いよお母さん!友達から借りた漫画なのに!」
僕は慌てて漫画をバスタブから取り出した。
「あんたが漫画に夢中になり過ぎな生活してるのは、その友達のせいなのね?友達もさぞかしだらしない生活してるんでしょうね。そんな子とは縁を切りなさい、修」
「嫌だ!直樹君は僕の大事な友達なんだ!」
僕は初めて親に歯向かった。どうして僕のミスで、直樹君が悪く言われなきゃならないんだ。お母さんは間違えている。
「お風呂が溢れたのは僕のせいだよ。それはごめんなさい。でも、直樹君は関係ない!」
濡れた漫画をタオルで拭きながらお母さんに訴えると、お母さんはため息をついて、育て方間違えたな…こんな子産むんじゃなかったと呟いた。僕はカッとなって、怒りを胸に抱えて自室に向かった。階段をドスドスと上がり、勢い良くドアを開けると、大きめのリュックサックに着替えや貴重品を詰め込んだ。僕のその様子を、慌てて追ってきたお母さんが止めようとする。
「修!何やってるの!止めなさい」
僕は無視して母親を押し退け、階段を駆け下りた。玄関ドアを開け外に出ると、満天の星空が綺麗だった。
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