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すると時雨がそっと白布を剥いでいく。ここまで丁寧に剥がしてくれるのは時雨だけのような気がする。白くも男らしく骨張った指が白布を最後まで剥がし終わった時、はっと息を飲む音が聞こえた。
腕の傷は開いており、ぐちゅりと音を立てそうな程血が出ている。もう俺としては見慣れたものだが、時雨の方は顔が青ざめていた。
「若様……今すぐ処置します。」
「ああ、任せた。」
時雨が手を傷口に翳すと、瞬く間に傷口の痛みが和らいでいく。やはり時雨の霊力は心地好い。退魔の術を使う時の霊力は鋭い感じがするのだが、こういう時の時雨の霊力は温かいのだ。まるで、冬の日の布団のようにずっと包まれていたいと思わせる。政暁は形のよい唇から零れる呪に耳を傾けて目を瞑った。どれくらい時が経ったのか、声が止んで目を開けると、時雨の顔が目と鼻の先にあった。
「時雨……!?一体何を……。」
「ご心配なく。ただ熱を測るだけです。」
そう言って時雨は、自分の額を俺の額にくっ付ける。
「若様、少しですが熱があるようですよ。風邪というより、呪詛の影響かと。明日は1日安静になさいませ。」
こんなに顔が近いというのに時雨は動じていない。無防備というか、昨日したからしないとでも思っているのか。
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