死神・三上しにかと万病がみるみる治る医者――解場繭砥 チームF

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死神・三上しにかと万病がみるみる治る医者――解場繭砥 チームF

 おーい、今帰ったぞ。いや居酒屋でさ、ちょっとだけ呑んですぐ帰るつもりだったんだけど、すげーうわばみのねーちゃんと話が合っちゃってさ。変なねーちゃんなの。なんか自分は死神だって言って。  びっくりだろ、死神だぞ、あーあれだよ、ウインクしたら男がぶっ倒れちゃうやつ。てかOLだとも言っててさ。死神にOLなんかあるか? って言ったら、死神社って言って、それこそそんなもんあるかって。なぁ?  てかさ、生まれたばかりの倅の名前だけど、いいの浮かばなかったろ? 死神のねーちゃんに相談したらセンスいいのよ。で、出生届を書いてもらっちゃった!  もうちょっと呑もうとしてさ、奥さん心配してるんじゃないのって言うから、お前の名前を出したら顔色変えてさ。早く帰れって店を追い出されたわけよ。  え? お前なに、寝てんの? おい、倅が泣いてるぞ。おい……。    ◇  僕の母さんは僕を産んでじきに亡くなった。父さんは僕をひとりで育てたことになるけれど、もうひとり母さんみたいな人がいる。  彼女は三上しにか、と名乗っている。割と普通の名前なのがおかしい。なぜおかしいかというと、人間ではないから。一応は人間の女性に見える。しかも凄く美人だ。でも僕にしか見えない。  しにかさんは僕を医者か弁護士にしたいらしい。父さんの貧乏ぶりを見ていたから、なにはなくとも高収入の道を選ばなければ人生は悲惨だと言う。 「いい? 貧乏の行き着く先は闇よ。奈落よ。底なしよ」  そういうことを日本酒を飲みながら言う。酔っ払いだと思うと全く説得力がない。  しにかさんは僕たち親子をずっと見守っているけど、父さんには姿を見せないよう力をセーブしている。しにかさんと呑んでいたせいで、父さんは母さんの死に目に会えなかったから、とてもじゃないけど合わせる顔がないそうだ。  そのわりに父さんの稼いだ金で酒を飲むんだから、説得力がない。  しにかさんは死神だ。死神の作業はひとりでできるものでもないらしく、組織立てて動いている。死神のなかにも幹部がいる。社長がいて上司がいて、しにかさんはしがない下っ端の社員だそうだ。  YouTuberになりたいと言ってしにかさんに反抗していた高校生のある日、しにかさんは、改まって正座して話した。 「あのね。あなたのお父さんは、明日死にます」 「そんな! しにかさんの力で止められないの」 「駄目なのよ。これは決まっていることだから。寿命っていうのは、そういうものなの。変えられないの。あなたのお母さんもそうだった」  しにかさんの言葉に間違いはなかった。  父さんは次の晩、心臓発作でぽっくりと逝った。 「もうちょっと早く教えることはできなかったの」 「そうしたら、あなたは残された日を悲しみながら送ることになったわ」  家だけは残ったけれどお金はほとんどなく、頼れる親戚もなく、僕は自活しなくてはいけなくなった。始めたばかりのYouTuberは、お金が貰える最低の千人のチャンネル登録数にすら、遠く達しなかった。  高校には行けなくなった。高校中退で就職先はそうそう見つからなかった。日雇いの仕事で食いつないだ。そんな生活から、一生抜け出せる気がしなかった。 「やっぱり医者になりなさい!」 「どこに医学部へ行ける金があるんだよ!」 「お金があったって行けるわけないでしょう、あなたの成績で」 「なに言ってんの。しにかさん……」 「馬鹿でも、医学部に行かなくても、医者になる方法があるのよ。日本には言論の自由があるの。お金も命も平等ではないけれど、言論の自由は平等に与えられているのよ。だからそれを使ってお金を得るの。貧富の差を乗り越えるにはそれしかないわ」 「言論の自由? 何言ってんの?」 「例文を出すわ。『○○で全ての病がみるみる治る』。この○○の中身を考えるのよ。私たちにしか提供できなさそうな雰囲気の漂うやつ」 「えええ」 「それで、適当な体験談をでっち上げて一冊の本にするの。そしたらISBNコードのつく自費出版社に持ち込んでちょっとだけ刷る。実績を積めば、今度は大手出版社からも出せるようになるわ」 「実績って! インチキなのに積めるわけないじゃん!」 「ところが積めるのよ。私は死神だから」  しにかさんはその方法――有り体に言えば手口――を語り始めた。  死神の世界も人間の人口増加に対して効率的に処理するためにIT化していて、予定表の通りに確実に〝死〟フラグをセットするのが、死神社のメイン業務だそうだ。 「予定表通りにセットしなければ、死を操作できるってことじゃないか!」 「それは服務規程違反よ。ひいてはコンプライアンスの問題が」  コンプライアンスとは法令遵守などという意味のはずだけど、普通法令って人間が定めるものだよね。死神には死神界の法令があるのかな。 「でも、死なないからって治せるわけじゃないでしょう」 「逆フラグもセットできるのよ。それができないと、死神の管理外の死が発生してしまうでしょう」  どこか釈然としないが、ともかく、しにかさんは人を殺す能力以外も持っているらしい。 「あなたが医者として出向くところに、私も行くわ。もし患者の枕元に私がいたら、あなたは施術するフリをするわけ。そうしたら、私が逆フラグをセットする。でも、私が患者の足元にいたら、その人は死が予定されている。なので、絶対にその人は救えない。助かりませんと正直に言うの。助からない患者がいても、百パーセント的中できれば名医ってことになるからね」 「でも、医師免許なしに医療行為は……」 「そこは話術で何とかしなさい。医療品ではなくて健康食品として売ってる商品には、いかにも体に良さそうなことが書いてあるでしょう。そういうギリギリの線を狙うのよ」  僕は嫌がった。けれど、ただでさえ無い貯金の残高はますます減っていく。駅の近くでホームレスを見かけたとき、僕は心を決めた。    ◇  ○○を決めろ、と言われていたので『ジャムジャム波動で全ての病がみるみる治る』という題名にした。ジャムジャム波動ってなんだよ、と頭の中で突っ込んだけど、完全にインチキなんだから、なんだよもなにもない。  ジャムジャム波動発生機はハンディ掃除機を改造して、ウィンウィンと音が出るようにした。掃除機との違いを強調するために、青色LEDを適当につけてキラキラと光らせもした。  仕組みは極秘で。特許出願中とでも言っておくか。  インチキ商売は、インチキなのに驚くほど上手くいった。  言ってみれば、お抱えの超能力者がいるみたいなものだしね。もの凄いチートを手に入れているわけで、平等どころか不平等もいいところだけど、貧乏はもうたくさんだ。  生活レベルは回復し、貯金は増えてきた。しにかさんは、また好きなだけ日本酒を飲めるようになった。 「ねえ。しにかさんは、どうしてずっと僕を世話してくれるの?」 「え?」  しにかさんはすっかり酔っている。僕が酔っ払った時を狙って訊いたからだ。素面だったら、適当にあしらわれてしまいそうだから。 「なんかね……人に頼られるのって、これまでで唯一の経験だったからかな。あなたの名前をつけたの。そして人の死にしか関わってこなかった私が初めて生にかかわったのよ」  その頃、僕は大学に行っていたら卒業するくらいの年齢だった。  医療行為ではないから、あまり派手にならないように活動していたけれど、ある日僕の話を聞いた人が来た。M&Aを繰り返して急成長した新興企業の社長室の人だ。その企業グループは、日本で一番稼いでいるらしい。 「うちの社長の病気を治してください」 「治療ではないですが、わかりました」  わかったと言っているのに、そこからが長かった。社長が意識不明で全く業務が進まない、いかにこの企業グループが社長のカリスマ性で保っているのか、社長を失ったらこの企業グループが瓦解するのは確実だから、是が非でも治してほしい、と涙ながらに語られて、別の意味で心配になった。  謝礼ははずむ、と言われたとおり、目を疑うような金額を提示された。  僕は、こんなときが来ればもしかしたら使えるんじゃないかと思っていたものを、押し入れの秘密の場所から取り出して、加工を加えた後、鞄に忍ばせ、案内された車に乗った。  社長の寝室には、いつもと同じようにしにかさんがいた。――足元に。  つまり、社長は助からないということだ。 「施術を始めますので、私と社長さんだけにしてください」  素直にすうっと周りの人が引く。 「施術? 死ぬとわかっていて?」  しにかさんは僕に話しかける。 「フリですよ、フリ。手を尽くしたフリです。別になにもしませんよ」  僕もしにかさんに応える。社長は意識不明だから問題はない。 「いつもみたいに掃除機を胸に当てればいいじゃん」 「ジャムジャム波動発生機です」 「ホントに発生してなくても、名前にはこだわるのね」 「しにかさんはこれでも飲んでリラックスしてください」 「それは! 幻の酒と名高い、作霊老ではないの! いつの間にこんなものを手に入れたのよ」  鞄に入るサイズの都合で四合瓶だったので、しにかさんはラッパで飲み始めた。だが、エチルアルコールを加える加工で度数は三倍にしてある。開栓済みであることは特に気にならないらしい。  しにかさんが前後不覚になったところで、社長の体を天地逆にする。 「しにかさん、そろそろフラグ立てお願いします」 「へ?」 「だから、フーラーグーたーて、です」 「ああい……」  こんなにみっともなく飲んだくれるくせに、顔は絶世の美女だから困る。  数日後、巨額の報酬が振り込まれた。   ◇ 「ねぇ、こんな稼業はもう止めにしない?」  だいたいはしないが、しにかさんはたまに死神社に出社する。いわゆるテレワークみたいな業務形態なのかはよくわからない。その、たまの出社の翌日にかしこまって、しにかさんはそう言ってきたのだった。  たぶん、しにかさんが正座しているのを見たのは二回目だ。  前は、父さんが翌日死ぬと言った時。なんでこんなにかしこまっているの? 「え、だってしにかさんが言い出したことじゃん」 「それでもよ。今回たんまり報酬をもらったでしょう」 「そうはいっても、こんな金額で一生暮らせるわけないし」 「あなたはカタギに戻りなさい。そしてかわいい女の子と結婚して、今回のお金を元手に海辺の小さな街で喫茶店でも開いて、末永く幸せに暮らすのよ」 「しにかさん、なんかベタで平凡な幸せ啓発系ソングの聴きすぎじゃない? 海辺の必然性が全然ないよ」 「別に山の上でも構わないわ」 「しにかさん、喫茶店はともかく、僕は結婚する気はないよ」 「するべきなの。あなたはちゃんと幸せを掴まないと」 「結婚しても、幸せなんか掴めない」 「どうしてやってもみないうちからそんなこと言うの」 「しにかさんにだけは言われたくない!」 「ま、しょせん私は死神だからね……」  しにかさんはむくれてしまった。  そうじゃない。そうじゃないんだ。  そのむくれた顔すら綺麗なしにかさんから、言われたくないだけなんだ。 「ま、いいわ」  別に認めたという言い方ではなく、今日のところは、と顔に書いてある。話を終えたいわけじゃなくて。  僕は意を決して、言葉を開いた。「僕は……」その先はものすごく勇気が必要だった。「僕は! しにかさんが好きなんだよ!」  一瞬の間が空いて、しにかさんの顔が硬直する。見ていられなくて、僕はしにかさんを抱きしめる。 「や、やめなさい」  僕は握りしめる腕に力を込める。 「やめなさい!」しにかさんは僕を突き飛ばした。「こんなことはあってはいけない」  僕が愛を告白してからしばらくは、気まずい日が続いた。  気まずくても僕はまだ諦めきれず、しにかさんに近づいた。  何度目かの「こんなことはあってはいけない」いうセリフを聞いた翌日に、新しい仕事の依頼が来た。  患者は例の社長の娘だった。写真を見ると、とても美しい女性だった。  しかも社長自ら依頼に来た。通常の医者では匙を投げたが、なんとしても救いたい。もし治してくれれば、娘を嫁にやってもいい、と言ってきた。  確かに綺麗な女性だよ。しにかさんの次くらいには。  でもしにかさんがいるから、この話を受けるのは気が進まない。その日は断った。でもまた明日来ると言う。 「あなたしか頼りはいないんです」  しにかさんなら何と言うだろう?  僕を逆玉に乗せて、これを最後と足を洗わせる。充分にあり得る展開だった。  でもしにかさんは、日本酒を飲みながらこう言った。 「別にやりたくなきゃやらなきゃいいじゃないあなたは死ぬまで童貞で魔法使いとか言われて悲惨な老後を送るのよウヒャヒャ」  ウヒャヒャ、と言っている顔は少しも笑っていない。  なんだろう、この棒読み調の態度。喧嘩でも売っているの? 腹が立った。  翌日社長がまた来たので、昨晩の勢いで引き受けた。もう、しにかさんなんか知らない。しにかさんなんか大っ嫌いだ。好きだけど、大っ嫌いだ。  でも病院に行ってみたらしにかさんはちゃんとそこにいた。しかも足元だった。  助からないことを知っていて、あんなことを言ったのか? 本当に腹が立つ。  さて、前と同じ手が使えるだろうか? こんなこともあろうかと、今回も足元にいる場合の対策は、考えようとはしたのだ。けれど、どうしても前と同じ手しか思いつかなかった。これでは無策と同じだ。  僕は駄目元で、しにかさんに日本酒を勧めた。 「おお、おお、これはあの子牛乃完敗でないの」  日本酒に詳しくないから、価値があるのかよくわからないけれど、この反応なら値打ちものらしい。酒の銘柄は違っても、手は同じだけれど――。  前と同じように、しにかさんは騙せた。  しにかさんって、実は馬鹿なのか?   ◇  社長令嬢と結婚の日取りについて話している僕のほうが、たぶん馬鹿なのだろう。  だって、僕はこの後に及んでしにかさんのことばかり考えている。  目の前にいる、この元患者だったお嬢さんは確かに綺麗だけれど、どうしても愛せるとは思えない。  お嬢さんは、こちらを見て顔を赤らめたりして、僕を気に入っているようだ。ますます罪悪感が沸き起こる。  話し合っているのは社長宅の応接間だ。そこにしにかさんが入ってきた。当然お嬢さんには、しにかさんは見えない。しにかさんは僕を連れ去ろうとする。 「やめて、今大切な話をしてるんだ! 今さら何だよ!」 「あの。どなたと話していらっしゃるの?」  お嬢さんには、僕が変な人に見えているだろう。  それに構わずしにかさんは僕の手首を掴んで、外に連れ出した。そして歩き続けながら手首を離さないまま話しだした。 「こんな処分になるとは思わなかった」 「処分? なんの話?」 「会社に不正がバレたわ」 「会社って死神社? 不正? どういうこと?」 「もちろん、二回も不正に寿命を延ばしたことよ」 「え、だってしにかさんは僕に騙されたんだよ! しにかさんが処分を受けるなんておかしい」 「一回目はね。でも、二回目は……何も取り柄のないあなたが、一生を保証してもらえるならばと思って。二回目の時には一回目のことはもうバレていて、処分を待つ状態だったの」 「……でも傍から見れば、しにかさんのほうが被害者だ」 「あんな単純な手に引っかかるほうがおかしいわ。普通に考えれば、私の故意だと思うでしょう。でもうちの上司は、おそらく意図的にそう取らなかったのよ」 「だよね。騙したのは僕でしょう」 「そうよ。だから、処分は〝あなたに〟下される――そう決まったのよ」 「え」 「彼らに与えた寿命は、あなたの寿命で埋め合わされる。あなたは今日死ぬの!」 「そんな! また逆フラグを立てられないの」 「私の端末アクセス権は剥奪されているわ」 「そんな……」 「だから直接サーバールームに乗り込むのよ! あなたも来なさい! 一人より二人のほうがまだ勝率が上がるわ」  いつの間にか亜空間のようなところを抜けて、僕たちはその「サーバールーム」らしき部屋の前までたどり着いていた。 「まさか乗り込んでくるとはねぇ」  スーツを着た男がいた。生きた人間ではなく、顔面はドクロだ。これがしにかさんの上司だろうか? その男がドアの前で立ちはだかる。  と、しにかさんが見事な脚線美で鋭いキックを上司の口に決める。ああこれが奥歯ガタガタ言わせたろかという技か、でもあれはケツの穴からか、と考えている場合ではない。  しにかさんが扉を開けようとして、男は立ち上がって背後から襲いかかろうとする。男に僕は飛びつく。うわあっと威嚇しながらのしかかった。  その甲斐あって、しにかさんは扉を開けた。  そこは、不思議な空間だった。人類が作る、箱のようなコンピュータとは全く似ていなかった。光った棒が上下にゆらめいていた。 「あれが、あなたの命のオブジェクト。直接アクセスするには、手で掴むしかない」  遠くには、もはや棒とはいえなくなった、消え入りそうな光の粒が見える。  そのとき、しにかさんは追いついた男に襲われた。僕は男を躱したけれど、男はしにかさんの首根っこを掴む。僕が男に襲いかかったら、男は何をするかわからない。 「早く。あなたの命に、別の光の棒を継ぎなさい!」  え? でも、それはつまり……。 「他の人の命を?」 「早く!」 「できないよ!」僕は返した。「僕はニセモノでも、医者なんだよ」  しにかさんはうなだれた。僕の光が消えようとしていた。 「私が代わってフラグを立てよう」  男の声に続いて、かすかに声が聞こえる。  意識が薄れてゆく。視界がだんだん暗くなってゆく。  その声ははっきりしなかった。でも、確かにしにかさんの声だった。 「私は、私もあなたを……」  その意味を考える余裕はなかった。  僕の意識は、そこまでだった。  だから、これ以上僕が語り続けるのはおかしい。僕は、もういないのだから。   ◇ 「全く、とんでもない騒ぎを起こしてくれたものだ」  日は改まり、三上しにかは憔悴しきって、ある会議室で上司の話を聞いていた。 「不正アクセス、上司への暴行、犯罪教唆。相応の処分が下されるべき――」 「解雇ですね」  しにかの憔悴は解雇を予測したからではなく、もっと大事なものを失ったことが大きい。 「当然でしょう。死神界に警察がなくて良かったね。そんなにうなだれてもあの人間は帰ってこないよ。命をもてあそんだ者は、ひとしく命によってあがなわれた、ということだ。命は、別の命によってあがなわれなければならないのだ」  上司の説教はほとんどしにかの耳に届いていなかった。 「ただ、解雇理由は別のものだ」 「別のもの?」 「資格喪失」 「え」 「もうあなた死神じゃないもの」 「なにを言ってるんですか?」  決して、あらかじめ決められた人の寿命を延ばすことは許されない。だが――。 「あなた、宿しちゃったでしょう。匂いでわかるよ」 「え……え……」 「人間はこれから大変だよ? 一年ごとにどんどん老けるよ? ああ、もう人間臭くてたまらんわ。さっさと荷物まとめて出て行ってくれないかな。シッシ。こっちは新しい社員を雇わなきゃいけないんだからさ、命は別の命によって、職員は新しい職員によってあがなわれなければ。さあ、行った、行った」  だが、命を継ぐことはできるのだ――。 [原作 グリム童話・死神の名付け親]
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