その男、無愛想につき

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その男、無愛想につき

なるべく人気のないトイレの個室を選んだ。 水音に紛れるように。咳き込んで、吐き下そうと嘔吐く音がタイル張りの床に響く。 「っ……ぅ……ぐッ……ハァ、ッ……ぁ……ゲホッ」 ぐらぐらする頭に、駆け回る思考は一つだった。 汚い、汚い、吐き出せ、と急かすのは自分。何故こんな事にと嘆き憐れむのも自分。 「うぅッ……ぅ、っ、ぁ……はぁ……」 口いっぱいに広がるあの臭い、味。後に残る胃液。 全て吐き下しても多分足りない。 「くそっ……くそっ……」 髪を掻きむしり、あの感触を味を体温を全て消してくれと誰に願うのか。 ……嗚呼、またやってしまった。 ■□▪▫■□▫▪■□▪ 呼び出され、見せつけられたのは動画。 小さいクセに画質が良いスマホのそれには、目を覆いたくなる。 喉の奥に突っ込まれて、涙を浮かべても必死で咥え込む風俗女みてぇな自分の間抜け面。 込み上げてきたのは怒りより先に吐き気だった。 『すごくいい感じに撮れたよねー?』 こんな最低なモノを見せてるのに、橘の目がやけに澄んでいるのが印象的で―――。 『先生。ほら生徒指導してよ』 カチャカチャと音をさせるそこに、俺は目を逸らして舌打ちをした。 また性欲発散するのか。若いんだな、女にでもしてもらえよ。なんて心の中だけで毒づく。 実際、整った顔の彼のことだ。女子生徒人気も高く、相手には苦労しないだろうに。 『俺には……先生だけだよ』 何も言わない俺の思考を読んだかのように、そう言ってごく自然に顔を近付けてくる。 「っ……やめろっ、バカ」 唇は好きな人と。……なんてガキじゃあるまいし。 でもこいつと嫌だ。キスなんて、冗談じゃない。 「ふーん」 顔を仰け反らせて意図的に避けた俺に、鼻白んだような表情をしたが。 でもそれも一瞬で、再び何を考えているか分からない笑みを浮かべた。 『じゃ、今日もよろしく』 そう言って寛げられたズボン。そこから見えるよく見知ったモノ。 『ほら。早く』 その声に唇を痛みを感じるまで噛み締める。 ゆっくり跪き、それに手を掛けた。 『ほ、本当に……するのか』 間近に見た生々しさは二度目だから尚更躊躇しかない。 小さな声で呟いた俺に、くすくすという笑い声が降りかかる。 『ほら頑張って。先生』 早くしないと他の人、来ちゃうかもね。 なんて囁かれたらもう逃げられない。戦慄く唇を開き、舌を出す。 恐る恐る這わせれば、ピクリと震える性器。 ……ちくしょう、死ね、殺してやる! なんて脳内で誹り罵倒の言葉を数々並べ立てながら、昨日より些かスムーズになった口淫に絶望した。
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