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京都駅から歩くこと30分。
1軒目の旅館に到着した。受付で見学の旨を伝えると、すぐに支配人が現れ旅館の中を案内してくれた。和を重んじた純日本風の旅館に、颯一郎の心は湧いた。
ロビーを抜け、客室や風呂場、宴会場、調理場を見せてもらった。調理場は昼前ということもあり、活気に満ちていた。料理長が大声を出している。見るからに職人の様相。颯一郎は胸ぐらを掴まれたかの如く、一気に緊張が増した。
支配人が料理長を呼んだ。そして颯一郎を紹介した。
「うちは老舗の旅館だから、和食を勉強したいならもってこいだ。厳しさもあるが、1人でも多くの職人に育ってもらいたい気持ちはあるから、その気になったらいつでもおいで。人手が足りないってのに、最近根性のある若者がいないんだよなー」
料理長はそういうと一礼し、すぐに現場へと戻った。料理長自ら包丁を握り、魚をさばいている。しかし目はギラギラ、活き活きとしていた。
30分ほど旅館全館を案内され、颯一郎は支配人にお礼を告げ旅館を後にした。社会人に向けた具体的な一歩を踏み出した、晴れやかな顔がそこにあった。
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