あの日告げれなかった言葉を君に……

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 腕の中で奈央が驚いたように肩を揺らす。 「俺は奈央が好きだ。奈央は?」 「……わた、しは……」  戸惑いに揺れた声は小さな子供のように頼りない。  おそる、おそると言った感じで奈央の手が俺のシャツを掴んだ。 「私だって、私だって……奏くんのことが好きだよ。好き……でももう……」 「遅くないっ」  噛みつくように俺は怒鳴る。目が熱い。鼻の奥が痛い。 「俺だって奈央に言われて嬉しいよ。伝えることできて嬉しいよ」  と言ったつもりだがズビズビな鼻声でどれだけ伝えられただろうか。 「うん。私も嬉しいよ」  しばらく抱き合って泣いた。本当に誰も通りかからなくて良かった。  やがて足元の影が見えなくなるころ「もう行くね」と奈央が体を離す。 「奈央ネェ……」  鼻声の俺に「ほんと、泣き虫だなぁ」と笑う奈央も鼻の頭が赤い。 「将来今日の事を話せる人ができたら私にも紹介してね」  奈央を包む光は少しずつ増えていく。 「俺はずっと奈央のこと……」 「ストップ。私は奏くんに幸せになって欲しいから。折角帰ってきた意味がなくなっちゃうじゃない」  でも、と食い下がろうとする俺に「ま、この一年くらいは喪に服してもらいたいかな」なんて茶化す。  次第に光に滲むように奈央の輪郭がぼやけて。 「大学生活楽しんでね。体にきをつけるんだよ」 「だから、そういうところ親戚のおばちゃんっぽいって。……奈央ネェも元気で」 「幽霊に元気でってのもおかしいの」  そう笑ったのが最後になった。奈央を包んでいた光が空に向かって溶けていく。  消える瞬間額にそっと何かが触れたような気がした。  光を見送り俺は歩き出す。  二人で歩いた道を逆さに辿るように。  グラウンドが整備された小学校、遊具が撤去された公園、バス停の新しい時刻表……。  そんな変化にようやく気付くことができた。  今はまだ考えることはできないが、いずれ誰かを想うようになるのだろうか。 「まずは奈央ネェに『行ってきます』って言うか……」  明日、花を持って初めての墓参りに行こうと俺は決めた。
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