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……とはいえ遊べるような施設もないので、まさしく散歩しかできないのが田舎の悲しいところだ。
まずはなんとなく地元の入り口、唯一の公共交通機関であるバス停まで。
当然俺も先日このバス停を使ったばかり。一時間に一本、多くて二本……相変わらずだ。
「夏休みにカブトムシ捕りに行ったよね」
なだらかな稜線を描く山を奈央が指さす。
本当に数年ぶりだというのに故郷の風景は驚くほど変わっていなかった。
「朝っぱらから無理やりね……」
溜息交じりに俺が返す。
二歳上の奈央は一人っ子の俺にとって逆らえない姉のような存在だった。
背を追い越すことができたのは中学だったか。
その時から姉のような存在から気になる存在へと変わった。
それが恋心だと自覚したのが高校一年の時。
バレンタインに貰った手作りのマフィン。
奈央は県外の大学へ進学が決まっているからこれが最後かとやたら寂しくなった。
そして高校三年生の卒業式、春休みで戻ってきた奈央に告白しようとした。互いの大学も近いし……とか浮かれて。
結局告白はできなかったのは見ての通りだ。
地域で一番大きな川に架かっている橋に出る。
橋から川へ飛び込んでいく子供たち。子供にとっての通過儀礼のようなものだ。
ただ最近色々と厳しくなったというのまだやっている事実に驚きである。
「いいなぁ、気持ちよさそう。私も久しぶりに飛び込もうかな」
「いい年して、何言って……」
子供たちのほうへと行こうとする奈央。
ファ……ン ファン
唐突に耳に蘇る甲高いサイレンの音。頭の中でフラッシュバックする明滅する赤い光。
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