あの日告げれなかった言葉を君に……

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「奏くん?」  名を呼ばれて我に返る。  気付けばその手を掴んでいた。 「あっ……いや、ごめん」  パッと手を放す。適当な言い訳が浮かばずにもごもごしている俺に奈央が「ふぅん」と訳知り顔で頷いた。 「コワイんでしょ?」 「……っ」  言葉を詰まらせる俺に奈央が意地悪く目を細める。 「飛び込むの怖いっていつもピーピー泣いていたものね」 「それは本当に小さいガキのころだけだって」 「そうだっけ? 泣き虫カナちゃん」  できれば初恋の人には覚えていてもらいたくないあだ名だ。 「あんな泣き虫だったカナちゃんがこんなに大きくなって、まぁ……」 「それさ、親戚のおばちゃんみたいだよ」 「失敬な! こんなにきれいなお姉さんに対して」  アイス奢ってくれなきゃ許さん、と駄菓子屋へ向かう奈央に俺は内心ほっとした。  木陰のベンチで昔ながらのアイスキャンディンディを頬張る奈央が足を投げ出す。 「あっついねぇ……」 「なら散歩しようなんて言わなきゃいいのに」 「だってさ、私、今日の夜には帰らないといけないんだもん」  弾丸日程だよ、と腕で飛行機が飛んでいくような仕草をした。 「そっか……」  シャリと噛んだアイスが思いのほか冷たくてキンと歯に凍みた。 「奏くんは今何をしてるの?」 「大学でAIの研究してる。多分、院に行く予定」 「ロボットとか好きだったものね」 「ロボットとは違うけど。まあ、でも違わないような?」 「どっちなの?」 「ロボットを動かすことにも使うかな。ロボットそのものではないよ」 「そういうところ細かいよね」  彼女に面倒とか言われない?呆れた口調に俺はついむきになって「彼女なんていないよ」と返してしまった。 「え……そうなの?」 「年齢と彼女いない歴一緒」  誰のせいだ、とは言えずぶっきらぼうに答える。「奈央ネェは?」とは聞けない。意気地なしで結構。 「じゃあ今日の散歩はデートにカウントしていいよ。次はデートの定番公園行こうか?」  奈央が言う。近所のおじさんが廃材で作ってくれた滑り台とシーソーが置かれた公園とは名ばかりの空き地だ。デートにまったく相応しくない。
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