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他と比べてペンキの白が新しい欄干の柱。
そこで奈央が立ち止まる。
「……ご、めん」
俺はそう絞り出すのがやっとだった。
「何が?」
いつもと変わらない奈央の声が逆に怖い。
「いや……その、あの日、俺が呼び出さなかったら……奈央ネェは……」
しどろもどろに理由を口にする俺を奈央はしばらく見つめていたが「そんなことより」とあっさり話題を変えてきた。
「そんなことって言い方ないだろ! 俺のせいで奈央ネェ……ぐがっ!!」
声を荒げた俺の脳天に叩き込まれたチョップ。
ふぅ、銃口にやるように奈央が手刀に息を吹きかけている。
「あの日、ここで何を伝えてくれるつもりだったの?」
教えて――と優しく奈央が微笑んだ。
「それは……」
今更告げたところでどうなるのか。ためらう俺に「早く」と少し拗ねたように促す。
「……っ。お……」
「お?」
なんかニヤニヤしているのが気に入らない。さっきまで色々考えていたのが馬鹿らしくなるような笑みだった。
「……お、俺は……奈央ネェが、いや奈央が……すっ 好きだ。 子供の頃からずっと好きだ!!!」
半ばやけくそに近い勢いまかせの告白。言い終えてからはどっと力が抜けて肩で息をした。
「ありがとう。嬉しいよ」
穏やかな声が川の流れと混じる。気づいたらサイレンの音は消えていた。
背伸びをして奈央がポンと俺の頭に手をのせた。
「やっと聞けた。これで私も思い残すことはないな。今までごめんね。ずっと後悔させて」
「奈央ね、ぇ……?」
次第に夕焼けは薄紫に。夕日が山の向こうに消え始めた。なのに奈央の周囲はキラキラ、光が舞っている。
もう時間がないのだ、と俺は直感した。
「返事は?」
「だからありがとう、嬉しいよ」
「ちがっ……そうじゃなくって。告白の返事」
「そんなの言っても……」
次第に小さくなる声。夕暮れの中、仄かに輝く奈央の肩がとても小さく見えて今にも消えてしまいそうで俺は思わず抱きしめていた。
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