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さよならに咲く言葉
ついに七日目の夜が来てしまった。
暗い森の中で天利は九鬼に言う。
「九鬼、最初の約束覚えてる?」
悲しげな表情で九鬼は言う。
「うん…。」
「今日は七日目でしょ?」
「うん…。」
「葬送、させてくれる?」
「うん…。」
「ありがとう、九鬼。」
「ねぇ、あまりは一週間、楽しかった?」
「楽しかったよ。正直言うと最初は面倒だなんて思ってた。でも、遊ぶにつれて九鬼の良さを知って、九鬼といることが楽しくなったよ。葬送するのは俺も悲しい。でも、早く葬送しないと九鬼は悪霊になっちゃう。そんな九鬼は俺、見たくないんだよ。」
「私も、楽しかった。今まで遊んでくれる子がいなかったんだ。生きてた頃はね、お父さんにもお母さんにも同級生の子たちにもいらない子って言われたの。何をやってもダメで、辛くて辛くて私は死んだの。だから生きてても、死んでも、誰にも相手にされないと思ってた。けど、あまりは遊んでくれた。今まで生きてた中でこんなに楽しいことなんてなかった。あまりがいたからより幸せな気持ちで、あの世に逝けるよ。こんな幸せこの私がもらっていいのかなって思うくらい。だから、自分の中の、全ての、ありが、とうを、あまりに、言うよ。ありがとう!あまり!」
天利は九鬼の笑顔を始めて見た気がした。
だから天利も自分の中の全てのありがとうを九鬼に言おうと思った。
「九鬼、こちらこそ、ありがとう!俺も、自分の、中の全ての、あり、がとうを九鬼に、言うよ。」
もう二人の顔は見るに堪えないくらいに涙でぐちゃぐちゃだ。
言葉も途切れ途切れで聞き取りにくい。
「あまり、ありがと、ね。さ、そうそして?」
「そう、だね。そ、う、そう。ずっと、げん、よに、しば、られて、たいへ、んでしたね。あのよで、しあわせになって、くだ、さいね。くき!」
そういうと九鬼は消えていった。
天利はそれからしばらくずっとずっと泣いていた。
泣き止んだのは朝日が昇ったころだった。
「寂しいな。また、行かないと。今度はこんな悲しい結末になりたくないな。九鬼は今頃、楽しんでるかな。楽しんでるといいな。いつか俺も死んでしまったらまた会えるといいな。それまではずっとずっと九鬼を思い続けるよ。」
そうして葬送師の旅は続いていく。
きっと近い再会の日を求めて。
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