9.その後の僕のお見合いの顛末

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9.その後の僕のお見合いの顛末

奈緒とのお見合いから1か月ほどたった7月ごろに、また実家からお見合いの話があると言ってきた。 両親には6月に東京で上司の紹介で縁談があって、兄貴に同席してもらったが、うまくいかなかったことを伝えていた。 それで両親は僕が結婚をしたがっていると思ってか、母の知人に縁談をお願いしていたらしい。 このころの僕は縁談があった時には無下に断ったりしないで、自然体で会ってみようと言う気になっていた。相手のあることだし、こちらが気負っても二人の気持ちが通じ合わないとうまくいかないと思ったからでもある。 お見合の相手は上野(うえの)瑞希(みずき)といった。僕より年齢は5歳年下の26歳だった。地元の私立大学短期大学部を卒業して役所の臨時職員をしている。二人姉妹の妹だが、姉はすでに結婚しているという。本人は国立大学の受験に失敗してしかたなく短大に入ったと言っていた。彼女は親元に居たかったらしい。 僕は会ってすぐに気に入った。とても美人で僕の好みのタイプだった。僕は小さい時から面食いだった。すぐに可愛い子に目が行く。学校でもクラスの可愛い子をじっと眺めていることが多かった。それでも声をかけたりはできなかった。ただ遠く離れたところから憧れてみていたといったところだろう。 歳が離れて26歳と若かったこともあり、とても新鮮な感じがした。話していても受け答えに卒がない。頭も悪くないと思った。ただ、漠然と良い娘だと思った。断る理由が全くないから交際をお願いした。 彼女も僕のことが気に入ってくれて交際が始まった。僕は出来るだけ帰省した。毎週とはいかなかったが、月3回は帰省して彼女と会って話をした。それに毎日帰宅すると電話を入れた。 彼女は家にいて携帯で受けてくれた。電話したら僕の話をよく聞いてくれた。僕は好かれていると思っていたし、実際に好かれていた。 今考えると交際中に帰省した時はどうして過ごしていたか思い出せない。二人で遠出した記憶がない。街中で会って話をしていただけだったと思う。ただ、毎日電話していたことだけはよく覚えている。 それで9月はじめに婚約することになった。そこまでは順調だった。婚約してから初めて彼女との齟齬に気付き始めた。お互いに遠慮がなくなったからかもしれないが、僕は自分の不満が自覚できるようになった。 ずっと毎日電話していたが、彼女からかかってきたことは一度もなかった。僕の帰りが随分遅くなってかけられなかった時もかかってくることはなかった。 それに帰省するのはいつも僕だけで、彼女の方から東京に遊びに来てくれたことは一度もなかった。遊びに来ないかと誘っても仕事の都合がつかないからと言われた。 なんとか時間を作って遊びに来てくれても良いのではないか。こちらで無理に関係を迫ることなど考えてはいないが、それを心配したのかもしれない。 それにしても腑に落ちなかった。本当に僕が好きで結婚する気があるのかとも思った。まあ、彼女の都合もあるので、こちらへ来られないのは仕方がないとも思った。いずれ結婚すれば二人でずっと一緒にいることになるのだから強いる必要はないと思っていた。 婚約したので彼女の家で新婚旅行先について相談した。彼女は海外へ行きたいと言った。僕は国内旅行にしたかった。慣れない外国へ彼女とすぐに行くのは気が進まなかった。 僕は結婚してから夏休みに行けば良いと提案した。でも彼女は海外旅行にこだわった。それもカナダへ行きたいと言った。なぜカナダにこだわるのか聞いたら誰も行っていないからというのが答えだった。 確かに新婚旅行には誰も行ったことのないところへ行ったと友人に自慢したいのだろう。僕の気持ちを何も考えてくれていない。それで彼女の今までの行動が理解できた。 彼女は自分のことしか考えていない。僕のことなんか考えてくれていない。そう思うと、力が抜けてきた。今まで何をしていたのだろう。彼女のどこを見ていたのだろう。 これから一緒に暮らしていく自信がなくなってしまった。あのとき彼女の無理を聞いてカナダへ新婚旅行に出かけていたら、いわゆる成田離婚になっていたかもしれない。 僕は帰宅するとすぐに両親に今までの不満を話した。そして今日のいさかいから一緒に生活していく自信がなくなったから、婚約までしたけれど仲人さんに破談にしたいと伝えてほしいと言った。 両親は驚いていたが、結婚してから別れるよりはいいだろうと僕の急な我が儘を聞き入れてくれた。 僕は翌日の日曜日に東京へ戻った。夜になって実家から、先方が謝っているから破談の話はないことにしてほしいと言ってきているがどうすると、連絡が入った。 僕は一旦壊れたものはもう元には戻らない、今、元に戻してもお互いの不信感から、またきっと壊れるから断ってくれるようにお願いした。僕がかたくな過ぎたのかもしれない。 お見合いして初めて会ってから3か月余りで破談になった。今思うと彼女には申し訳ないことをしたと思っている。彼女への不満をため込まずにもっと始めから率直に話をすべきだったとも思っている。そうすれば避けられたかもしれないし、もっと早く判断できたかもしれない。 ただ、彼女には元々そういう我が儘なところがあったのかもしれない。それに可愛い娘だったので、いつも男子にちやほやされて、相手からしてくれることに慣れていたのかもしれないと思った。 だから彼女はただ無意識に自然にふるまっていただけだったのかもしれない。言ってみれば僕との相性が悪かっただけかもしれない。僕とはご縁がなかった、そう思うことにした。 さすがに今回は懲りた。間に入ってくれた仲人さんにも両親にも迷惑をかけた。まして彼女にも多大な迷惑をかけた。 しばらくは縁談もないだろうし、すぐにまたその次という気にも当然なれなかった。自分がいやになった。僕は9月で32歳になっていた。
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