僕と彼女とカップ麺

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これは上手い手だ。 これなら大きなエネルギーも得られるし、目星をつけた雄の遺伝子を取り入れた容れ物まで準備させることができる。まさにお手本にしたいぐらいの手際だ。 「はい、どうぞ」 言葉とともに僕の前にカップ麺が置かれた。 「あ、ああ、ありがとう」 「どうしたの、怖い顔して。 岡田さんの小説、そんなに怖かった?」 「うん、そうだね。とっても怖かった」 「突拍子もない話なのにリアリティがあって、突き落とされるような怖さなのに、なんだか生々しいのよね」 「小説におけるリアリティというのは、いかにもあり得そうな事を書くんじゃなくて、たとえ荒唐無稽でもそれが実際に目の前で起こっていると読者に感じさせる技術のことだからね。 その点、岡田さんはすごいよ」 「そうだよね。MもCTBも、もしかしたら本当にあるのかもって思えるもんね」 彼女の言葉に僕は頷く。 このリアリティは岡田朔の小説技術などではなく、本当にあったことをそのまま書いているだけなのかもしれないのだが、それを口にすることは出来ない。 岡田朔がMなのか、それともMを知る別の何者なのか、あるいはその豊かすぎるイマジネーションが奇跡的に真実をなぞらえてしまっただけなのかは分からない。 だが、ひとつだけいえる。 この作品が公開されたことによって、世の中のMたちがこの精神的ブートキャンプの手法を踏襲することは間違いない。 Mによる人間管理の在り方は変わるだろう。 より効率よく、そしてMと人間という関係性の中のことではあるが、より深い愛情を持って我々は人間を管理するようになるはずだ。 今年はMにとっても元年になるだろう。 僕はカップ麺の蓋を開けて、麺を一口すすった。 程よく伸びていた麺は、口に入れるとぶよぶよとした食感だけを残してどろりと崩れさった。
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