天動説

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天動説

この世界は陸地があって海がある。 海は陸地の何倍も広く青く深い。 空にも海があって太陽が昇ると明るく、夜は暗くなる。 星々は僕らが立つこの大陸や海の周りを回っていて、僕らが立つこの世界は巨大な器の上にあって、器は亀の上にある。 亀は蛇の上にいて尻尾を咥えた蛇がベルトコンベヤーのように、又はハムスターの回しぐるまのようにくるくると回転している。 蛇の表面には太陽や星々が張り付いていて、僕らが立つここ、地球は球体じゃない。 地動説は間違っていた。 ただしいのは天動説だった。 全てが根本的に間違えていた。 僕らは節穴だった。 今までの科学は所詮1+1の計算をしていたのだ。 進歩した科学、優れた文明、恐ろしい兵器。21世紀まで積み上げた人間の叡智とやらは、解10をもとめるのに、掛け算も使わず1+1+1+1+1+1+1+1+1+1=10と出していただけだった。 21世紀中盤、地球が丸いと皆勘違いをしていると唱えた人物がいた。 彼は小説家だった。 妄言だと言われながらも様々な方法で自分の考えを書き記し発表した。 23世紀になってヨーロッパの国が4つくらいまで減った頃、AIの科学者がこの論文がただしいことを発見した。 世界は読み込まれていた。 データのように使われているところだけ読み込まれていた。 読み込みが追いつかない速度で移動すればその空間に取り残され時間は停止した。特殊相対性理論の速度が上がれば時間は遅くなりやがて停止するという理論はつまりこういうことだったのだ。 早すぎてデータが読み込まれず、ラグが起きて遅くなり、やがて読み込まれなくなり移動出来ずに停止する。 この世界は実にゲーム的にできていた。 ダークマターも無いことが判明した。 なんでも理論的に考えようとした科学者のせいでないものがあると信じられてきた。だから宇宙の質量を考えると何か見えないしさわれない物質があるはずだとずっと信じられてきたダークマターは存在しない。 25世紀の僕らからすれば科学者が言っていた科学とやらも、詐欺師やインチキ霊能者が言っていたハンドパワーや水銀による不老不死の薬やら、魔法なんて鼻で笑う話だった。 読み込みを超えた先に何があるのか。 世界の端がそこにある。 世界の端からは水が滝のように落ちている。落ちているだけで水は減らない。 人間が見ていない場所で水が複製されているからだ。 落ちた水がどこにいくのか、それを知る者はいない。 過去おりたものはいたが、帰ってきたものはいない。 僕はその前代未聞の挑戦をしようとしていた。 世界の端から飛び降りるのだ。 万が一に備えてパラシュートを担いできた。 片足を下ろしてから、滑るようにそのまま下へ飛び降りた。 パラシュートを使っていないのにゆっくりだった。水しぶきが重なって固まっている。 下に広がる雲海を見た。 固まっている。 全てが固まっていた。 慌ててパラシュートを開くが、開きかけた状態で僕も固まった。 音も聞こえなくなった。 僕も固まった。 全てが固まって 僕は
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