プロローグ

1/4
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ

プロローグ

 その動画は肝心なところがぼやけていた。  スマートフォンで撮られたと思われる、縦長の映像。真っ暗闇の中でオレンジ色の外灯に照らされている、木々とベンチと大きな滑り台。映っているのは、深夜の公園か。 「それ、撮れてんの?」 「撮ってる、撮れてるよ」 「ちゃんと、ビデオにしてる?」 「してるって。ばっちり映ってるし」  音声は、二人の女性の声が重なり合っていた。上ずった調子から、彼女たちの興奮度が伝わってくる。 「ほら、あそこ。歩いてんじゃん。マジ、歩いてんじゃん」 「ちゃんと撮れてるから。何なの、あれ。キモイ。ガチでキモイ」  画面の中央を横切る、石畳の通路。たぶん、被写体はこの石畳を歩いている人物なのだろう。残念ながら、ピントが合っておらず、ぼんやりとぼやけた姿だった。外灯が届いていないため薄暗く灰色のシルエットで、人であることはわかるものの、顔はおろか服装も、男性か女性かすら判別できない。 「どうすんの、これ。どうすればいい? わたし、撮ってるだけでいいの?」 「今、ケンくんに電話してるから。そのまま、待ってて。ケンくん、ケンくん、今、アサコと一緒なんだけど、出たよ、出た、出たっ」
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!