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プロローグ
その動画は肝心なところがぼやけていた。
スマートフォンで撮られたと思われる、縦長の映像。真っ暗闇の中でオレンジ色の外灯に照らされている、木々とベンチと大きな滑り台。映っているのは、深夜の公園か。
「それ、撮れてんの?」
「撮ってる、撮れてるよ」
「ちゃんと、ビデオにしてる?」
「してるって。ばっちり映ってるし」
音声は、二人の女性の声が重なり合っていた。上ずった調子から、彼女たちの興奮度が伝わってくる。
「ほら、あそこ。歩いてんじゃん。マジ、歩いてんじゃん」
「ちゃんと撮れてるから。何なの、あれ。キモイ。ガチでキモイ」
画面の中央を横切る、石畳の通路。たぶん、被写体はこの石畳を歩いている人物なのだろう。残念ながら、ピントが合っておらず、ぼんやりとぼやけた姿だった。外灯が届いていないため薄暗く灰色のシルエットで、人であることはわかるものの、顔はおろか服装も、男性か女性かすら判別できない。
「どうすんの、これ。どうすればいい? わたし、撮ってるだけでいいの?」
「今、ケンくんに電話してるから。そのまま、待ってて。ケンくん、ケンくん、今、アサコと一緒なんだけど、出たよ、出た、出たっ」
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