悪夢を見なくて済む方法

2/48
65人が本棚に入れています
本棚に追加
/234ページ
 逃げなくちゃ。急いで起き上がって、走り出す。だが、四人の足は早かった。ただでさえ運動不足なのに、ジーンズが水を吸って重く走りづらい。あっという間に追いつかれ、背中に飛び蹴りをくらわされる。 彰宏は激痛を感じて、倒れ込んだ。蹴られただけでは済まない、刺すような痛み。背中に手を回すと、べったりと指先に灰色の液体がまとわりついていた。血だ。ガウ氏の血が出ている。 その痛みの正体は、次のひと蹴りで判明する。彰宏の顔面目掛けて飛んできた足の裏、サッカースパイクの底面にはスタッドと呼ばれるいぼが取り付けられていた。 本来ならグランドを捉えてグリップ力を高めるためのスタッドだが、彼らのそれは明らかに形状が違う。金属製のスタッドは、先端が鋭く削られていた。サッカーグランドではなく、肉へ突き刺すために改造されたものだ。  彰宏の頬を八本のスタッドがかすめ、筋状の切り傷をつけた。四つん這いで逃げようとすると、尻を蹴られる。チクリではなく、グサリとスタッドの突き刺さる感触があった。 腹ばいになった背中を、幾本もの足で踏みつけられる。金属が肉に食い込むたびに、背中の皮膚がズタズタに引き裂かれる痛みを感じた。  四人に取り囲まれ、逃げることができない。後頭部を踏みつけられると、体の奥底がしびれる痛みに襲われた。死ぬ。殺される。彰宏はこの痛みから逃れる唯一の方法を思い出した。 「消えろ、消えろ、僕の体、消えろ」
/234ページ

最初のコメントを投稿しよう!