花火が終わっても、このゲームを続けていいかな

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花火が終わっても、このゲームを続けていいかな

十七    彰宏は、いつもの時間に家を出て、いつものバス停に立った。とても暑い日だった。まぶたを閉じても、日差しの強さを感じられる陽気。ただ立っているだけで、汗がしたたり落ちた。 いつものバスがやって来て、停留所で乗客を乗せ、いつものように走り出す。だが、彰宏はバス停に立ったまま、バスを見送った。やおら、西大通りに向けて歩き出す。  予備校をサボるのは初めてだった。講義には、出席簿も点呼も存在しない。後ろめたささえ気にしなければ、誰に咎められることもなくエスケープできる。彼には、予備校生の本分をなげうっても、行きたい所があった。  場所は、だいたい分かっていた。西大通り、関屋浜高校の近く。目的の家には、一目瞭然の目印が掲げられているはずだった。入り組んだ小道を幾度も曲がり、行ったり来たりを繰り返して、三十分ほどで見つけることができた。  分譲住宅地の一画で、その家だけが目立っていた。御霊燈提灯と忌中行灯、玄関を覆う白黒の鯨幕。周囲に漂う線香の香り。門扉には故人の名前と葬儀場を知らせる案内が貼られていた。矢野由太、享年十四歳。早すぎる死を悼む供花にも、日差しは容赦なく降り注ぐ。  玄関先には洋型の霊柩車が停車しており、今まさに棺が運び込まれている最中だった。 喪服に身を包み、白い手袋をした男性四人が、棺を抱えて荷台へと乗せている。それを背後から見守る、たくさんの人々。その中に、彼女はいた。
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