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悪夢を見なくて済む方法
二十七
彰宏は、思い切って川に飛び込んだ。三人組の強襲から逃げるには、それしか手が無かったのだ。川岸で罵声をあげる三人組を尻目に、信濃川を泳いだ。
海水浴の季節はとうに過ぎていて、水は冷たい。濁流はそれほど早くはなく、平泳ぎともクロールとも、犬かきともとれない泳ぎ方で、川岸へと渡り着くことができた。
川からあがり、ずぶ濡れのまま芝生に寝転がる。顔の水を拭おうとして手を伸ばし、おかしなことに気付いた。手のひらに焦点が定まらないのだ。ぼんやりとぼやけている。よく見れば、腕も、足も、腹も、全身がぼやけていた。
「冗談じゃない。これじゃあ、僕がガウ氏みたいじゃないか」
ガウ氏を追いかけすぎて、おかしな夢を見るようになった。そう思って、頭を叩く。
「寝てる場合じゃない。早く起きろ」
腕をつねったり、頬を叩いて目を覚まさせようと試みるも、夢の世界から覚める気配は訪れなかった。
そんな彼の腹目がけて、何かが飛んできた。へそのあたりでバウンドして、芝生に転がる。腹を押さえながら、コロコロと転がる丸い物を目で追いかけた。ボールだ。サッカーボール。
慌てて横を向くと、サッカーユニフォームを着た四人が、猛然とこちらに向かって走って来ていた。
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